「あー、クソっ!!」

 力任せにわしゃわしゃと髪をかき混ぜる。


 そんなヤツ、俺が八つ裂きにしてやる。

 ふざけるな。彩智は、俺以外の男に触れられると失神するんだぞ?

 そんなこと、許されるわけが……。


 そのとき、蒼真の手を取る彩智の姿が、目の前にあるんじゃないかというほど鮮明に頭の中に蘇り、ギリッと奥歯を噛みしめた。


 ……蒼真が無理やり彩智に触れたわけじゃない。

 彩智が、蒼真の手を取ったんだ。

 蒼真はなにも悪くない。


 頭ではわかっているのに……なんだか吐きそうに気分が悪い。


 アイツなら任せてもいいと思うのと同時に、なんでアイツに彩智が取られなくちゃいけないんだという思いがやってくる。


「ははっ」

 乾いた笑い声が口から洩れる。


 ほんと、身勝手もいいとこだな。

 ——そもそもアイツを彩智のパートナーにと思ったのは、俺じゃないか。

 そういう意味でのパートナーのつもりは毛頭なかったけどな。


 幸か不幸か、俺には御門家の人間である彩智やあの人ように、人の心を動かす才はないが、御門家に婿養子として入った父親譲りの頭脳がある。

 自分がどう振る舞うべきか、今なにをすべきか。

 今までずっと計算して動いてきた。


 そんな俺の緻密な計算を狂わすのは、いつだって彩智だ。

 想定外だったが、彩智がアイツの手を取るというのなら……そうだな。アイツになら、任せてもいいかもしれない。


 本音を言えば、吐きそうなほどイヤだけど。