「マジかよ……」

 彩智に手を取られ、校舎の中へと二人が姿を消すと、ぽろりとそんな言葉が零れ落ちた。


 ずっと俺だけが彩智にとって特別な存在だと思っていたのに。


 ふらふらと屋上の周囲に張り巡らされた柵のところまで歩いていくと、柵を背に、ズルズルとしゃがみ込む。


 この世の終わりなんじゃないかっていうくらい、世界が真っ暗に見える。

 彩智に必要とされている——それだけが、俺の存在意義だったのに。


 自分は本当に存在してもいい人間なのかと考えはじめたのは、いつのことだったか。


『この子のことを守ってほしいの』


 あの人にそう言われたときはちゃんと理解できなかったけれど、彩智と出会い、一緒に暮らすうちに、あの人の本当の想いが理解できるようになった気がする。


 そして、それと同時に、俺には生きる理由ができた。

 どんなに辛く苦しいことがあったって、彩智の笑顔を守るためと思えば、いくらでも乗り越えられた。

 彩智の笑顔は俺だけのもので、彩智はずっと俺のそばにいてくれると……そう信じて疑わなかった——今日までは。


 ……いや、これでいいんだよな。


 俺だって、未来永劫ずっと彩智のそばにいてやれるわけじゃない。

 だって……結局のところ、俺らはただの兄妹なんだから。

 そのうち彩智は誰か別の男と……。