蒼真さんの切れ長の目に至近距離からじっと見つめられているのに気付き、わたしは思わずうしろに飛び退いた。


「す、すみません。大丈夫です。あの……ごめんなさい」

 わたしは、ぎゅっと胸元を握り締めた。


 心臓が痛いくらいドキドキしている。

 だけど、これは発作が起こりそうなときの症状とは全然違う。


 そのとき——。


 キーンコーンカーンコーン……。


 昼休みの終わりを告げる予鈴が校内に鳴り響き、急に現実に引き戻された。


「き、教室! 教室に戻らないと」

 お弁当袋を胸にぎゅっと抱き締め、ぺこりと蒼真さんに頭を下げると、わたしは教室に向かって一目散に駆け出した。


***


 帰りの車の中で。

 お兄様は、ずっとなにかを考え込むようにして黙っていた。


 なんだかすごく疲れた顔をしているみたい。


 教室に戻ってからのことが気になって、車に乗る前に蒼真さんとのことを聞こうとしたのだけれど、「彩智の心配するようなことは、なにもしていないよ」としか言ってくれなかった。