「おい、止まれ! …………彩智、一旦止まれ。大丈夫だ。陽介は追ってきていない」


 階段を全力で二階まで駆け下りたところで蒼真さんの声が聞こえ、ハッと我に返って足を止めた。

 近づいてくる足音がしないかしばらく耳を澄ましてみたけれど、聞こえてくるのは教室の方から漏れ聞こえる話し声くらいだった。


「そ、そうみたいですね」


 蒼真さんに何事もなくて、本当によかった。


 わたしはホッと胸をなでおろした。


「……すまないが、手を離してもらえるか?」

「えっと……ひゃぁっ! ごめんなさい、わたしったら」

 パッと手を離すと、ペコペコ頭を下げ、平謝りする。


 え。ちょっと待って。

 わたし、自分から蒼真さんの手を掴んで……?


 男性に触られただけで発作が起きるはずなのに。

 この前なんて、暴力的な争いを見ただけで気を失ってしまったのに。


 ひょっとして、触れられるのはダメだけど、自分から触れるのは大丈夫ということ?


 それとも、蒼真さんはお兄様のお友だちで、最近親しくさせていただいているから……?


「彩智、大丈夫か? また具合でも——」

「ひゃぁっ!」