***


 ぐすん、ぐすん……。


 すすり泣く声が、どこからか聞こえてくる。


「お兄様、どこ?」


 キョロキョロあたりを見回しながら5歳のわたしが呼びかけると、すすり泣く声がピタリと止まる。



 陽介(ようすけ)お兄様は、わたしの兄だけど、お母様が違うの。

 少し前に、お父様が再婚した新しいお母様とこのお屋敷へやって来た、わたしのひとつ年上、6歳の男の子。



「御門家の跡取りとして、おまえのことは厳しく育てるつもりだ。甘えは一切許さない」

 このお屋敷に来たばかりで、どこか心細げな顔をした陽介お兄様に、お父様は容赦なく言い放ったの。

「返事はどうした?」

 上から押さえつけるような、威圧的なお父様の物言いに、戸惑いの色を隠せないお兄様。

「う、うん……」

「返事は『はい』だ。よく覚えておきなさい」

 はじめて声を出したお兄様に、お父様がぴしゃりと言うと、お兄様はビクッと肩を震わせる。

「はい。……ごめんなさい」

 すっかり体を縮こめてしまったお兄様は、怯えたようにそう返事をした。