翌朝学校に行くと、大変な騒ぎになっていた。
「一年の金沢が、相原さん相手に10秒倒れなかったらしいぞ」って。
よくわからなかったけれど、「たいていの人が5秒と持たずにKOされるらしい」という話だったから、金沢さんはすごくがんばったっていうことみたい。
そのウワサの金沢さんというのは、わたしのクラスメイトの金沢悠さん。
キレイな長い金髪で、女性と見間違えるほど美しく整った顔立ちをしているの。
「なに、悠。昨日の蒼真先輩の相手って、アンタだったの? 言ってくれれば、応援くらい行ったのに」
莉乃さんが、金沢さんの肩を親しげにパシパシ叩いている。
二人の様子をキョトンとして見ていると、
「ああ。悠とは、幼馴染みたいなもん? 保育園のときからずーっと一緒なの。ねーっ」
莉乃さんが金沢さんに同意を求めるように顔を覗き込んだけれど、金沢さんは不機嫌そうにふいっと顔を逸らしただけ。
「もうっ。昔はあたしのうしろをずーっとくっついて歩いて『莉乃ちゃん、莉乃ちゃん』って、そりゃあもうかわいかったのに。今じゃ一人で育ったみたいな顔して、すっかり愛想がなくなっちゃってさー」
わたしのすぐ前の自分の席に座りながら、莉乃さんがため息を吐く。
「いやあ、それにしてもガチですげーって、おまえ。女みたいな顔してん——」
同じクラスの男子が最後まで言い終える前に、気付いたらその男子は金沢さんに胸倉を掴まれ、ギリギリと締め上げられていた。



