学園最強の兄は妹を溺愛する

 ある程度の覚悟はしていたが、日本とアメリカの治安はまったく違う。

 実際に危険な目に遭ったわけではないが、この先は危険だという信号を受け取ったことは、この一年で何度かあった。

 彩智が一人で留学するということは、猛獣の檻にウサギを投げ入れるようなものだ。

 そんなところに一人きりにしておけるわけがない。

 アイツは……二年で帰国する気満々だからな。


 口元に思わずふっと笑みが浮かぶ。


「彩智。陽介には最後まで黙っておけ。その方が、アイツの驚く顔が見られるはずだからな」


 そりゃあ、驚くだろうな。

 彩智の元に一時でも早く帰りたがっている陽介と入れ替わりで、彩智がアメリカに来たとなったら。


 陽介の愕然とした顔を思い浮かべ、ちょっとだけいい気味だと思ってしまう自分は、悪いヤツだなとつくづく思う。


 いや、アイツが悪いんだ。

 いつだって俺と彩智のことを監視しやがって。

 普通ありえないだろう。恋人とのビデオ通話に、毎回兄貴が割り込んでくるなんて。


 大切な妹で、心配なのはわかる。

 それに、二人の複雑な事情も、多少は理解しているつもりだ。