「わたし、おかしいんです。アメリカに来て……蒼真さんに会ってから。すごく……苦しいんです」

「彩智。こっちを向いて」

 すぐうしろで蒼真さんの声がする。


 ゆっくりと振り向くと、蒼真さんと目が合った。

 蒼真さんの愛おしいものを見つめるような視線に、目が離せなくなる。


「蒼真、さん?」


 なんだか蒼真さんの方が泣きそうな顔をしているみたい。


「彩智」

 熱っぽい声でわたしの名前を呼ぶと、蒼真さんがそっと顔を近づけてくる。


 そして、ほんの一瞬唇に触れると、すぐに離れてしまった。


「ずっと……本当はこうしたかった」

「蒼真、さん……?」

「ごめん、これ以上は……指一本触れないって、里見さんと陽介と約束してるから」

 わたしに伸ばしかけた右手をぎゅっと握り込んで、一瞬苦しそうな顔をした蒼真さんが、ゆっくりと首を左右に振る。


「いや、それは違うな。俺が……彩智を大切にしたいって思ってるから。だから今日は、俺の意志で、これ以上彩智には近づかない」

 蒼真さんが、いつもの凛とした表情でわたしを見る。


「……すみません。もう、出ていこうとしたりしませんから。明日の観光、楽しみにしてますね。おやすみなさい」


 蒼真さんも、わたしと同じ気持ちでいてくれたってわかっただけで……それだけで、わたしには十分。


 涙を拭って蒼真さんに笑顔を向けると、わたしは自分のベッドへと戻った。


 心臓の鼓動がドクドクとうるさい。

 頭から布団をかぶり、そっと自分の唇に触れてみる。


 さっき、一瞬だったけど……。


 かぁっと熱を持ったように、顔がアツい。


 こんなの、絶対に眠れません……!