ずっと心に引っかかっていた疑問は、大きくなってから、もうひとつの可能性を導き出した。


 けれど、これは決して開けてはいけないパンドラの箱。

 それを今さら確かめようとは思わない。


 いやむしろ、そんなことは今さらどうだっていい。


 だって、俺には彩智を一生守り続けるという、生きる理由ができたのだから。

 透明人間で、いてもいなくても変わらないと思っていた自分に、存在意義ができたのだから。


 彩智と暮らすようになってすぐ、俺は確信した。

 跡取りに相応しいのは俺じゃない。彩智だ、って。


 彩智のお母さんにはじめて会ったときにも感じた。御門家の人間には、人の心を動かす力があるのだと。


 俺が流星学園を治めるために使ったのは腕力だ。力で脅し、従わせた。

 それだけじゃないって言ってくれるヤツもいるにはいたけど、自分ではそうは思わない。


 今は御門ホールディングスのトップに立つ父親だって、俺に言わせればそんな器じゃない。

 けれど、それを本人もわかった上で、歯を食いしばって自分の役割を全うしようとしているのだ。


 それはきっと、後にも先にも世界でただ一人の愛する妻のため。


 だったら、俺もそうしよう。


 ——いつの日か、彩智がトップに立つべきときが来るまでは、俺が彩智の影武者を演じようと。


 幼心に、そう決めたんだ。



(了)