母さんは、ここの主——つまり俺の父親とは愛人関係だった。

 それは父親の正妻——彩智のお母さんも承知の上だったというのだから驚きだ。


 彩智のお母さんは、生まれつき体が弱く、出産には耐えられないと医者に言われていたそうだ。

 それでも、家を守るために愛人に子どもを産ませるなんて、正直金持ちの考えることはわからないって思った。


 それに、父親は御門家の婿養子だ。

 つまり、父親と愛人との間の子である俺には、御門家の本筋の血は流れていないってこと。


 それでも家を守るため、俺たち親子はこの屋敷へと招き入れられたのだ。

『御門家の長男』を跡取りにするために。


 そうして計画通り愛人に子ができたのだから、彩智のお母さんが彩智を産む必要なんてなかった。

 けれど、どうしても自分の子がほしいと彩智のお母さんが望み、そして彩智が生まれた。


 そして、それをきっかけに彩智のお母さんの病状は悪化し、彩智が四歳のときに亡くなってしまったのだ。


 そこまでわかると、ある疑問が浮かんだ。


 なぜ彩智のお母さんは、自分の娘がちゃんといるというのに、赤の他人である僕にまで愛情を注いでくれていたのだろうか。


 自分たちの身勝手さへの償い?


 もちろんその可能性が一番高いとは思うのだけれど。