御門家の屋敷に来る前、俺は母さんとマンションで二人暮らしだった。
母さんは、そんなにあくせく働いている様子でもなかったけれど、俺たちは特に金に困ったことはなかった。
俺の誕生日とクリスマスには、俺の『父親』だという人からケーキとプレゼントだって届いていたし、母さんが家を留守にすることが多いことくらいは、まあ、たまに寂しくはなったけれど、我慢できないほどじゃなかった。
というより、そもそも家に一緒にいるときだって、俺の姿は母親の目に映っているのだろうかと疑問に感じることさえあった。
なんていうか、自分は実は透明人間なんじゃないかって疑ったりしたくらいだ。
まあ、鏡にはちゃんと映っていたけれど。
母親の愛情を感じたことはなかったけれど、暴力を振るわれたりしていたわけでもない。
すごく不幸かというとそうでもないし、かといって幸福を感じたこともなかった。
俺が五歳のとき、知らない女の人が家を訪ねてきた。
母さんは、俺とその知らない女の人を残して、家を出ていった。
「おかーさん⁉ ねえ、おかーさん、なんで行っちゃうの⁉」
扉に向かって叫んだけれど、母さんは戻ってこなかった。



