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「あーもう、ほんと勘弁してほしいんだけど」

 そう言いながら、金沢さんが深いため息を吐く。


「いいじゃん、憧れの陽介先輩に、会長のボディガードを頼まれたんだから。誇りに思いなさいよね」

 莉乃さんが、隣に座る金沢さんを肘で小突きながら言う。


「は? ふざけんな。別にあんなヤツに憧れてなんかいねえ」

「ふうん。そんなこと言いながら、ちゃーんと頼まれ事聞いてんだから」

「……御門が危なっかしくてほっとけないだけだ。っつーか、御門になんかあったらアメリカから飛んで帰ってきそうなアイツの方が面倒なんだよ」

「あー、それはたしかに!」


「そろそろお時間ですね」

 すっと立ち上がると、ステージ横の階段をゆっくりと上り、ステージ中央へと歩いていく。


 この学園にはもう、お兄様も蒼真さんもいない。


 けれど、お二人がいなくなっても、わたしはもう一人じゃない。