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 一月からの大学進学準備のため、二学期が終わるとすぐ、お二人はアメリカへと旅立つことになったの。


「すまん、待たせたな」


 空港に先に着いたわたしとお兄様の元へと歩み寄るカツカツという足音とともに、蒼真さんの声が背後でして、パッと振り向いたわたしは、思わず目を見開いた。


「……! 蒼真さん、め、メガネ……」

 はじめて見る蒼真さんのメガネ姿に、なんだかキュンとする。

「ああ。普段はコンタクトなんだが、長時間のフライトならこの方がいいと思ってな」


「はいはーい。そこまでね、お二人さん」

 お兄様が、わたしと蒼真さんの仲を切り裂くようにして、わたしたちの間で両腕を振り下ろす。


「あんま時間ないし、そろそろ行くよ、蒼真」

「……わかった」

 蒼真さんが、名残惜しそうにわたしに視線を向ける。


「そんじゃ、元気でな、彩智!」

「お兄様も、お元気で。蒼真さんも、お勉強がんばってくださいね」

「ああ。行ってくる」


 お兄様を先頭に、二人は保安検査場へと続く列に並んだ。


 ……本当に行ってしまわれるのですね。お兄様も。蒼真さんも。


 ずっと現実のこととは思えず、なんだかフワフワした感覚の中にいたけれど、小さくなっていくお兄様たちの姿を見ているうちに、これは現実なんだと急に突きつけられたような気がする。


 お兄様……蒼真さん……。


 涙腺が緩み、二人の姿が涙で滲む。


 お兄様が先にセキュリティゲートを通過すると、「失礼」と言って、蒼真さんがくるりとUターンした。