「大丈夫。すぐに帰ってくるよ」

 そう言って、お兄様がぽんぽんと優しくわたしの頭をなでてくれる。


 それが引き金になったかのように、必死に堪えていた涙がぼろぼろと零れ落ちた。


「う……うぅっ……」

 両手で拭っても拭っても、全然止まってくれない。


 お兄様が、そんなわたしの頭を自分の胸にぐいっと抱き寄せ、わたしはそのままお兄様の胸で、声を上げておもいっきり泣いた。



「彩智、落ち着いた?」


 どれくらいの時間が経ったのだろう。

 わたしが泣き止むまで、お兄様はずっとそばにいてくれた。


「はい。……すみませんでした、お兄様」

「いや。まさか彩智がこんなに寂しがってくれるとは思ってなかったから、正直うれしいよ」

 お兄様が、少し恥ずかしそうに笑う。


「俺も寂しいけど……ちゃんと彩智を守れる力をつけて、戻ってくるから。それまで待ってて」


 今でも十分お兄様には守られてばかりなのに。


「はいっ。お兄様のおかえりを、ずっとお待ちしていますね」

 わたしは、目一杯の笑顔をお兄様に返した。


 そうだ。跡取りの件を、お兄様にもお伝えしておかなくては。


「あの、お兄様。わたし……」

「うん? どうした?」

「い、いえっ。なんでもありません」


 ううん。やっぱり、今じゃない。


 ちゃんとお父様に認められてからにしよう。

 お兄様にお伝えするのは。