お父様の書斎を一歩出ると、はぁ~~と大きく息を吐く。

 やっぱりだいぶ緊張していたみたいで、どっと力が抜け、体を支えるために思わず壁に手をついた。


「——彩智」

「お兄様!」


 わたしの名前を呼ぶ声がして、慌てて声の方を見ると、お兄様がこちらに向かって歩いてきていた。

 一週間ぶりに見たお兄様は、少し瘦せているようだったけれど、なんだかスッキリした顔をしていた。


「父さんからもう聞いたかもしれないけど、俺、一月からアメリカに行くことになったから」

「はい。先ほど聞きました。……蒼真さんとご一緒に、ということですか?」

「結果的には、ってとこ。たしかに前にそんな話はしたことあったけど、まさか蒼真も同じタイミングで受けていたとは思わなかったよ」

「そうだったのですね」

「実はあのパーティーのあと、父さんに留学の件を打診して、今日やっと説得できたんだ。時間はかかったけど、これだけはどうしても譲れなかったからさ」


 それでスッキリした顔をなさっていたのですね。


「……よかったですね、お兄様」

 わたしは無理やり口角を上げ、お兄様に向かって笑って見せた。


 ダメだって思うのに、勝手に涙腺が緩んでしまう。