蒼真さんは、アメリカへと旅立つ決意をした。

 なら、わたしのすべきことは?


 ウジウジ悩んで、立ち止まっている場合じゃない。

 だって、蒼真さんの隣に、胸を張って立てる自分でいたいから。



 コン、コン、コン。

「お父様。今、お時間よろしいですか?」


 お父様の書斎の扉を叩くと、「入りなさい」と中から返事が返ってくる。


「失礼します」


 何年ぶりだろう。お父様の書斎を訪れるのは。


「どうした、彩智?」

 お父様は手元の書類から顔を上げ、わたしをまっすぐに見た。


「陽介を学校に行かせてほしいという話であれば——」
「いえ、そうではありません」

 お父様の言葉を途中で遮るようにしてキッパリと否定すると、お父様は眉をひそめた。


「では、なんだ?」

「わたしを…………お兄様の代わりに、お父様の後継者にしていただけないでしょうか?」

「はっ。なにを急に言うかと思えば。バカも休み休み言いなさい。彩智に務まるわけがないだろうが」

 嘲笑しながらそう言うと、お父様の表情が一気に険しくなる。

「これは子どもの遊びじゃないんだ。ビジネスだ。数万人の社員への責任を負うことになるんだぞ。それをわかって言っているのか?」