言えないわ……こんなこと。

 だって、こんなことを思っているのは、わたしだけかもしれないもの。

 抱きしめてほしい……だなんて。


 キーンコーンカーンコーン……。


 タイミングよくというべきか、悪くというべきか、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響く。


「あ、ご、ごめんなさい、蒼真さん。わたし……」

 握ったままだった蒼真さんの手をパッと離すと、今まで考えたこともなかったような自分の大胆な欲望を思い返して、かぁっと頬がアツくなる。


「そ、そろそろ午後の授業がはじまりますね。教室に戻りましょう」

 ごまかすようにしてそう言うと、アツくなった顔を見られないよう蒼真さんに背を向ける。


「そうだな」


 校舎に入る前、そっと空を見上げると、まるで蒼真さんの旅立ちを祝うかのように、雲ひとつないキレイな青空が広がっていた。


 本当は、考えれば考えるほど不安は募るばかりだけれど。


 きっと大丈夫。

 そうよね?


 深呼吸をひとつすると、わたしは蒼真さんと一緒に屋上をあとにした。