学園最強の兄は妹を溺愛する

「向こうのロースクールを出たあとは、日本に戻り、司法修習を受けようと思っている。今後、御門ホールディングスをグローバル展開するために、アメリカで学んできてほしいと。……実は、前々から陽介に頼まれていた」

「えっと…………お兄様に? でも、お兄様はあとは継がないと……」


 それなのに、前々から会社の将来のことを考えて……?


「継ぐつもりはないが、仕事を投げ出すつもりもない。俺はそう聞いている」

「それじゃあ、お兄様があの場で跡取りを辞退することも、ひょっとして蒼真さんはご存知だったのですか?」

「ああ。あとのことを、陽介に頼まれていた。父親に謹慎処分を喰らうことくらいは、覚悟の上だったんだろう。自分に似た頑固な父親を説得するには、強硬手段を取るしかないとは言っていたが……まさか、あそこまで大胆なことをするとは、さすがに俺も驚いたよ」

 蒼真さんが、パーティーでの出来事を思い出したのか、苦笑いする。


「でもっ! お兄様が継がなければ、会社は……」

「彩智がいる」

「……へ? わたし……ですか?」

「君が継ぐべきだと、アイツは言っていた。自分は跡取りの器ではない。彩智がなるべきだと」

「む、ムリです! わたしにできるわけがありません」


 だったら、今までのお兄様のがんばりはなんだったの?

 わたしにお兄様の代わりなんて、できるわけがないわ。