「……麗華さん」


 サファイアブルーの足首まで隠れるロングドレスに身を包み、首元には二連のパールネックレス。

 キレイな黒髪は、いつにも増してツヤツヤしているように見える。

 なんだかとっても大人っぽい。


「彩智さん、どういたしましょう! 今日、予定通り陽介さんとの婚約を発表すると、お父様が張り切っていらっしゃるの。わたくし、ドキドキしてしまって……」

 麗華さんが感無量といった表情で両手を胸に当て、きゅっと握り締めている。


 お兄様、やっぱり断り切れなかったのね。


「おめでとうございます。麗華さん」

「本当にありがとう。彩智さんも、これから義理の姉妹として、末永くよろしくお願いいたしますね」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「ごめんなさい。本当は彩智さんともっとおしゃべりしていたいのだけど、お父様のところへ戻らないと」

 軽く挨拶を交わすとすぐ、麗華さんは笑顔で行ってしまった。


 とりあえず、これでひと安心……なのよね?


 お兄様は、後継者としてお披露目され、予定通り婚約発表をする。

 御門ホールディングスを裏切ることもないし、すべてが今まで通り。


 ……そうよね?

 うん、そうよ。そうに決まってる。


 今だって、お兄様は取引先の方々に丁寧に挨拶して回っているんだもの。

 だから「彩智が心配することはなにもない」って言ってくださったに違いないわ。