「相原先生って……ひょっとして、蒼真さんの……」

「俺の両親だ」

「えぇっ⁉」

 悲鳴のような声を出してしまい、慌てて両手で口を押さえると、「も、申し訳ありません」と小さくなって頭を下げる。


「なんだ、まだ彩智に話していなかったのか、蒼真」

「親の職業なんて、別に話す必要もないだろう」

 いつもと少し違うぎこちない表情を浮かべた蒼真さん。なんだか新鮮。


「蒼真。しばらく彩智のことを頼んでもいいか?」

「わかった。行ってこい」

「さんきゅ」

 ぽんぽんと蒼真さんの肩を叩くと、お兄様はゆったりとした歩調でもう一度会場の中心に向かって歩いていった。


 お兄様の背中を見送ったあと、蒼真さんのご両親も去り、蒼真さんと二人きりになってしまった。


 ど、どうしよう……普段と装いが違うせいか、なんだかいつもより心臓がドキドキする。


 そんなわたしをあまり見ないようにしたまま蒼真さんは「すぐ戻る」と言うと、背を向け行ってしまった。


「あ……」

 その背中を追いかけることもできず、ただじっと見送ることしかできない。


 そのとき——。


「ごきげんよう、彩智さん」


 不意に声を掛けられ、声の方を見ると、一人の女性が立っていた。