お兄様がこのお屋敷にいらしたときは、ただただうれしかった。

 わたしは一人じゃないって思えたから。


 だけど、今ならわかる。

 これは、体が弱かったお母様への、お父様の明らかな裏切り行為だ。


 でも、そのことに気付いてからも、お兄様を慕う気持ちだけは変わらなかった。

 だって、お兄様だけはいつだってわたしの心に寄り添ってくれていたから。


 なら、もしお兄様が、この御門家への裏切りを考えているのだとしたら、わたしはどうしたらいいの?


 お父様に知らせるべき?

 それとも……お兄様のために、見て見ぬフリをする?


「彩智はなにも心配する必要はないよ。それより、ほら。冷めないうちに食べよ」


 笑顔のままゆったりと食事を済ませると、お兄様は何事もなかったかのようにダイニングルームをあとにした。


 お兄様の考えていることが、まったくわからない。


 御門家への裏切りでないとしたら、いったいなぜお兄様は一生結婚しないなんておっしゃったの?


 麗華さんとの結婚がイヤなわけではなく、一生結婚しないと決めているのはなぜ?