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「そうだ、お兄様。今日わたし、麗華さんにお会いしたんですよ」

 夕食の席で麗華さんの名前を言った瞬間、お兄様の手がぴくりと反応する。


「……それで?」

「それで……お兄様と麗華さんは、中学のときのクラスメイトだったのですね」

「うん、そうだよ」

「……」


 なんだか全然会話が弾まない。

 というよりも、あえて続かないようにされているような気がする。


「…………わたし、今、好きな人がいるんです!」

 お兄様が、手に持っていたナイフを滑らせ、お皿とぶつかりカシャンと音を立てた。


「だから、お兄様もわたしのことは心配なさらず——」

「彩智。俺は一生結婚はしないって決めてるんだ」

「え……」


 お兄様が、穏やかな笑みを浮かべてわたしを見る。


「だって、それじゃあ御門ホールディングスはどうなるんです? お兄様のあとは、誰が継ぐんですか? そんなの、きっとお父様が許すはずがありません」


 まさかお兄様……。


 ううん、そんなわけない。


 だけど…………よく考えてみれば、お兄様がお父様を恨んでいたとしてもおかしくはない。


 わたしだって……。