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「十月の創立五十周年記念パーティーで、陽介をわたしの後継者として正式にお披露目する。それから、伊集院家のご令嬢との婚約発表もすることになったから、そのつもりでいなさい」
いつもお忙しいお父様が、珍しくわたしたちと一緒に夕食の席に着いたかと思ったら、びっくりするようなことを口にした。
お兄様が、ひどく慌てた様子でガタッとイスの音を立てて立ち上がる。
「待ってください! 婚約の話は、まだ正式に決まったわけでは——」
「なにを言っている? これはおまえに話を通した時点で、すでに決定事項だ」
「ですから、その件に関しては、現在麗華さんと直接……」
え……お父様とお兄様はなんの話をしているの?
今、婚約って……。
カシャンと音を立てて、スープスプーンが手から床に落ちる。
「彩智様、新しいスプーンをお持ちしました。——彩智様、大丈夫ですか?」
「あ……ごめんなさい。ありがとう、里見さん」
里見さんが持ってきてくれた新しいスプーンを手に取り、スープをすくったものの、口元まで持ち上げることすらできない。
「十月の創立五十周年記念パーティーで、陽介をわたしの後継者として正式にお披露目する。それから、伊集院家のご令嬢との婚約発表もすることになったから、そのつもりでいなさい」
いつもお忙しいお父様が、珍しくわたしたちと一緒に夕食の席に着いたかと思ったら、びっくりするようなことを口にした。
お兄様が、ひどく慌てた様子でガタッとイスの音を立てて立ち上がる。
「待ってください! 婚約の話は、まだ正式に決まったわけでは——」
「なにを言っている? これはおまえに話を通した時点で、すでに決定事項だ」
「ですから、その件に関しては、現在麗華さんと直接……」
え……お父様とお兄様はなんの話をしているの?
今、婚約って……。
カシャンと音を立てて、スープスプーンが手から床に落ちる。
「彩智様、新しいスプーンをお持ちしました。——彩智様、大丈夫ですか?」
「あ……ごめんなさい。ありがとう、里見さん」
里見さんが持ってきてくれた新しいスプーンを手に取り、スープをすくったものの、口元まで持ち上げることすらできない。



