六月の半ば過ぎ。
朝から梅雨らしく降り続いていた雨は今はやみ、雲の切れ間からは薄日も差している。
そんな景色をゆっくり楽しむ余裕もなく、わたしは二年生棟へと続く渡り廊下を一気に駆け抜けた。
「いったたたた……」
気付いたらわたしは廊下に尻餅をついていて。
曲がり角で誰かと正面衝突したのだと、一瞬の間を置いて悟った。
「すまない。大丈夫か、彩智?」
「そ、蒼真さん!? いえ、わたしの方こそすみませんでした」
尻餅をついたままのわたしに向かって、蒼真さんがさっと手を差し伸べてくれる。
その手に手を伸ばそうとしている自分に気がついて、パッと引っ込める。
自力でわたわたと立ち上がると、蒼真さんに向かってぎこちなく笑ってみせた。
「……あ、ありがとうございます。一人で立てますから」
なにやっているんだろう、わたし。
ずっとお兄様以外の男性に触れることのできない体質だったはずなのに。
なんだか心臓がドクドクとうるさく音を立てている。
「どうした、顔が赤いようだが。さっきぶつかったときに——」
「大丈夫です! お気になさらないでください!」
ばっと頭を下げると、わたしはくるりとUターンしてその場から逃げ出した。
蒼真さんといると、自分が自分でなくなってしまうみたいで……なんだか怖い。
握り締めた拳にきゅっと力を込める。
……ちょっと待って。
慌てて急ブレーキをかけて立ち止まる。
わたし、蒼真さんを探していたんだわ!
急いでいた理由を思い出し、わたしはもう一度Uターンして来た道を戻っていった。



