女神は天秤を傾ける

 お酒で多少饒舌になってくれれば、もっとイリを知ることができる。

 出会いも酒場だったしね。



「イリも釣りを?」

「ああ。お前よりでかいのを仕留めたこともある。店にいた連中に振舞っても、まだ余ったほどのな」

「私より!?」





 きっとさっき注文したのはその魚料理なんだろうけど、私の大きさの魚がお皿で運ばれてくるのを想像してしまって、食べきれるかしらと変な心配をしてしまった。

 そんなことないよね?



「はい、お待たせ! まだまだ持ってくるからね」

 とんと置かれた皿は、一般的な大きさでホッとした。



「美味しそう……」

 木の実の衣をつけられて揚げられたお魚が、赤と白のソースの上に飾られていてとてもいいにおいがする。

 一口で頬張れる大きさになっていて、ジアという店主が私に合わせてくれたようだ。

 隣の席の人たちも同じものを頼んだみたいだけど、魚の大きさが違っていた。

 こういう気遣い、とても好き。



 目の前で眉間にしわを寄せて、「こんなことなら」とか「だから反対したんです」とかブツブツ言ってる人も見習ってほしい。

 私は大口開けて料理を頬張れないし、馬とはゆっくり散歩しかしたことがない女なんだから。



「うるさい、うるさい。もう今日は動けねぇんだから、愚痴るな」

 うんうん、私もイリに同意見よ。

 本当に偉い魔法師なの? 態度はえらいけれど、こんなに小言や嫌味が多いと、部下が可愛そうになってくる。



 モアディさまともっと親しくなりたい気持ちはあるけど、凍るような視線とか小言は心が凹みそうになる。

 いまとか。





「美味しい! モアディさまも是非食べてください」

 取り分ける小皿に、勝手によそって前に置いた。

 ちょうど香り良い焼き立てパンも、肉も届いて私はとりあえずいったん笑顔。



 乗馬でお腹がすきすぎて、そっちの意味で落馬しそうだった。





「私はニジーは苦手なのでよそらなくていいです」

 次に来たお肉とお野菜を焼いたものをよそおうとしたとき、モアディさまは手で制する。

「こいつなー、ニジーだけじゃなくてピマンもセルリンも駄目だぜ」

「え? そうなんですか? こど……」



 その先を、ぐっと飲みこんだ。

 これ言ったら、凍らされるやつ。



「こど、なんですか?」

 ほら、もう冷えてる。



「え? “こんど”って言ったんです。今度、すごく美味しいニジーケーキを食べてほしいなって。嫌いな人でも絶対食べられる美味しさなんです。今度差し入れ―――」



「けっこうです」

 

 ご、誤魔化せた?

 嫌な顔はされたけど、冷気はなくなった。



 ちょっとイリ、絶対笑ってるでしょ!





「このお肉、柔らかくてほんと美味しいですわね」

「痛っ」



 テーブルの下、イリのつま先をぎゅっと踏んだ。

 もう氷りたくないの、私は!