女神は天秤を傾ける

 確かに騒いで誰か来たら、私だけじゃなく二人の立場も悪くなりかねないわね。

 いま奥歯ぎりぎり噛みしめてでも、怒っちゃだめなんだわ。




「私は意識をなくしていた。熱が出ていたから、介抱していた。と言うことですよね? それ以外なにもないですよね!」



 怒ってはだめ。

 そう思っていても、語尾が強くなってしまったけど。



「なにがあるって言うんだ。お前、変なこと言いだすなよ」

「どうして顔が赤くなるんです? ちょっと! なにもないわよね? あ、私のドレスはいったい誰が! どこに? あ、ありましたわ」



 イリの赤面の理由もだけれど、いつまでも薄着も恥ずかしい。

 テーブルの上にかけてあるのが見えて、私は駆け寄った。



「見ないでください」



 そういうと、二人は私に背を向けてくれた。

 一応、そんな礼儀は持っているようで安心しました。

 していないけれど。



 後ろで縛り上げるデザインじゃなくて良かったわ。

 さっと着込んで、形を整える。



「着終わりました」



 ぱんぱんとドレスの裾を整えて前を向くと、二人も私を見ていた。

 見られてないわよね、と言う私の考えが伝わったのか、イリはちっと舌を鳴らした。

 モアディさまは、私より早く服を着たようで。

 イリも早くなにか着て欲しいと睨んだら、むっとしたように返された。



「見てねーよ、お前の裸に興味ねえからなっ」



 なんて屈辱的なことを。



 けして見られたくはないけど、見ない理由に腹が立つ。



「一応弁解しますが、私も見ていませんよ。ドレスも、顔をそむけて脱がせました。でもそれはあなたの身を護る必要があったからです」



 顔をそむけてまで介抱してくださったんですね。

 あなたがドレスを凍らせたから。



「それはそれは、ありがとうございます」



 これって、私は助けられたの?

 私の中では、私は被害者で二人は加害者なんだけど。

 モアディさまは感謝しろという態度だ。



「具合がよくなったのなら、出発しますよ。あなたが目を覚まさないので、私たちは出遅れているのです」



「え? しゅ、出発!? もう王子は国を出ちゃったんですか!?」



 私、そんなに寝てしまった?

 ひと晩ぐらいの感覚だったのに、もう出発してしまったなんて。

 阻止どころか、出遅れるなんて。




「お前、三日も意識なかったからな。さすがにモアディも置いていくことはできなくて残ったが、いまなら追いつける」



 三日!? そんなに!?



「すみません……」



 軍の上位の魔法師を足止めしてしまったことには、素直に謝った。

 置いていかれなかったことにも。



 ん?

 置いて行ってほしかったのよね、私。



 でもこの部屋に放置は駄目よね。




「こっちの支度はできてる。あとはお前の身体次第だ」



「私の身体ですか?」



 具合が悪いと言ったら行かなくても済むかしら。

 でも、軍医でもあるモアディさまを騙せる気がしない。

 いま私は、どこも痛いとか寒いとか熱いとかはないし、むしろたっぷり寝たおかげかとてもすっきりしている。

 無理だ。



「身体は……大丈夫です」



 そう答えるしかなかった。



「でも、私は家に帰りたいです。もし侵入者とか泥棒なんか来たらせっかくの商品が……」



「なにを言ってるんですか?」

「え?」



 あ、また私を見下した瞳。




「私が張った結界に、侵入者などありえません」



 モアディさまの力を疑ったわけではなく、そのことをすっかり忘れていました。

 もう私には、拒否する言い訳が思いつかない。



「わかりました。同行すればいいんですよね?」



 家のことを理由に断れないのなら、もうあきらめた。

 心配だったクリアリが結界に守られるならいい。



 もしお父さまやあの親子が離れに近づけば、悪意がそれをモアディさまに報せるだろう。

 私が行って何が変わるかわからないけど、死がこれで私に近づくことになるかもしれないけど。