「説明が難しいのですが、脈絡のない部分もあることを理解していただいて聞いてください」
目を開けて二人を見ると、モアディさまは変わらず私を疑うまなざしで、イリはイライラとまた腕組をして私を見ている。
怯んじゃだめ。
一世一代のはったりよ。
でも気をつけなければいけない。
けして大げさに語らないこと。
真実味が薄れる。
大きくひとつ息をついて、私は口を開いた。
「竜が暴れるのです」
「はぁ!?」
「スハジャ公国に、封印されているのかもしれません」
私が言いだしたことに、怪訝に眉を寄せたイリを無視して私は続けた。
「火を吐く竜が、山を吹き飛ばし街を焼き尽くします」
キリカの持っていたあの本は、封印されていた竜が暴れて国を滅ぼしかけたが、勇者が現れいけにえとして竜に喰われる運命だった主人公の姫を救うとてもロマンティックなおとぎ話だった。
竜なんて、伝説の生き物。
鳥のようにそこら辺に飛んでいるものではない。
だからおとぎ話なんだ。
だけど、文献には残っているからおとぎ話とも言い切れない。
「はっ! なんだよ、火を吐く竜だって? ははは、なんだそりゃ」
私は大まじめに言ったつもりだけど、イリはまるで面キ白い話を聞いたように笑った。
「笑いたければ笑えばいい。でも、笑えなくなるのはイリだよ」
「笑い話を笑って何が悪い」
ふんぞり返らんばかりに、胸を張られてほんと腹だった。
あなたにはわからないでしょう、この先に起きること。
なってからでは、笑いごとでもおかしい話でもなくなるのよ。
確かに、おとぎ話から拝借した話ですけれども。
「どうだ、モアディ。お前だって、笑いをこらえてるだろ?」
イリの同意を求める声に、意外にもモアディさまは神妙な顔のままでなにかを考えこんでいる。
「おい、モア……」
「最初から、おかしいことばかりです」
「ほら、モアディだって笑うってよ」
フンと自分の方が正しいと誇る態度に、近くに本でもあったら投げつけたい気持ちになる。
ここにそんな本が置いてなくて、良かったわねイリ。
「笑えませんよ、イリ」
「は?」
「え?」
私たちは二人して間抜けな声を出してしまったので、凍えるような冷たいモアディさまの瞳にとすっと氷の針が刺さったような気持ちになる。
「竜は伝説の生き物ではありません。いた記録が残っているので、どこかに封印されて今は出ていないだけというのはあり得る話です」
「そ、そうですよね! いますよね!」
まさかモアディさまが加勢に回ってくれるとは思っていなかったけれど、これはいい流れだ。
「スハジャの気候が安定しているのは、なにかの理由で竜が封じられているからかもしれないと思ったんです。この夢を見たとき。あまりにも生々しく見えたから、これ予知夢と呼ばれることなのかもしれないと」
「おいおい、だってお前はただの公爵令嬢だったはずだろ。なんでいきなりそんな話を」
「普段からしていたら、外れることだってあるから嘘つき令嬢なんて呼ばれてしまうじゃないの」
「なるほど、すべて当たるというわけでもないのですね」
モアディさまがまた思案している。
まずかったかな。
今回も外れるでしょう、なんて流されてしまわないかな。
「と、とにかく、第一王子が何をしたかは知りませんが国外追放ということは処刑には至らないと判断されたんですよね?」
「それには答えかねます」
この段階でも、向こうは口を割らないのか。
「この話だけでは信憑性がありません」
あぁ、やっぱりそうなりますか。
突然すぎる話ですからね。
私だって、自分だったら信じない。
「もういいな、いろいろ聞きたいことは残ってるから、あとは帰国してからにしてくれ」
イリの時間は、もう私に割けないと言われている。
あぁ、駄目だったか。
少しこっちに風向きが変わったと思ったのに。
「確かに聞きたいことばかりです」
言いながら、モアディさまが立ちあがる。
モアディさまも、もう終わりと話を切り上げてきた。
「いまは、とにかく時間がありません」
「はい……」
私も立ちあがる。
失敗したので、別の方法を考えなければいけない。
道中に油でも撒いたらどうかな。
「なので、あなたには同行していただきます」
「はぁ。えぇーーーーーっっっ!」
モアディさまの提案に、私は大きな声をあげイリはいつもの切れるような鋭い瞳をこれでもかと開いた。
