女神は天秤を傾ける


「イリ、まさか……」

 モアディさまは少し驚いたようにイリをみたけど、ふぅーと長い溜息をひとつついて信じられないというように首を振った。



「何を考えているのですか?」



 言葉には呆れも含まれているような声音。

 なに? なにがわかったの?

 モアディさまは、なにをさとったの?

 イリはまだ途中なんだけど。

 イリの考えって?




「私はまだわかりません。なぜ、皆凍えるのです? 確かに冬には雪が積もる日もありますが、それは毎年のこと。いくら庶民だって準備しているでしょう」



 イリをあきらめたモアディさまは、私に向き直る。



「間に合わないのです」

 私の声に力はなくなっていた。

 思い出すと、どんどん気持ちが沈んでしまう。



「なぜですか?」



 なぜと問われると困る。

 夢で噴火を見たと言えば?

 先生の言っていた噴火の兆候もあるし、信じてもらえる?



 信じてもらえるからなんだっていうの?



 信じてもらったら、今度は私がなぜという疑問がどんどん大きくなる。



 この先も、私は小出しにこれから起こることを言うときがあるかもしれない。

 そんなにずばずば当ててしまっていいの?



 教会のものでも、魔法師でも、聖女でもない。

 神童として、子供の時から夢見があると広まっていたわけでもない。

 いきなり出てきた、それも偶然だけど仕組んだように近づいてきた女が。




 そう考えたら、噴火のことは言わない方がいいと思った。

 じゃ、代案は?




「それは……」



 目を閉じて思い出しているふりをして、私はたった今の思い付きを語ることにした。