「待て!」
ガチンと、合わさった剣の音が響く。
城の堀をわたり、格子が下げられた門の前にいた二人の門番。
とても怪しい女の私が近づくと、睨みをきかせ剣で道を塞いだ。
門番として、正解の行動ね。
「何用だ、女」
ガタイのいい、右の門番の男。
「帰れ」
見上げるほどに背の高い左の門番。
「呼ばれてまいりました。私はリーディア・カイゼン。こちらを見せるように言われています」
怯まない。
ピンと背筋を伸ばして、堂々と。
私、招待されてるんだから。
姿勢は大事と、淑女の基本で習ったわ。
「これは……」
私が見せた紙に、門番は驚きの声を上げた。
紙と私を交互に見る。
ちらっとその手元を見たら、紋が赤く浮き出ていた。
あれは王家の紋章。
さっきまで、モアディさまの署名しかなかったのに。
「失礼しました。どうぞお通りください」
ざっと道が開けられる。
「ありがとうございます」
私は二人に会釈して、城の中へと踏み入れた。
すぐ別の兵が駆け寄ってきたけど、また例の紙を見せたらすんなり奥へと通してくれた。
石畳の敷かれた広い城内。
生前、数度来たことがあるけれど、あれは宴のときだったから雰囲気がまるで違っているように感じる。
どこか冷たく、そして暗い感じがした。
「カイゼン嬢、こちらへ」
兵に案内され、城の執事の一人が私の対応に出てきた。
とても静かに話す老人で、私にとても丁寧に頭を下げてくれた。
「お寒くはありませんか?」
「大丈夫です」
私の足に合わせた歩幅、視線だけちらっと私を見て歩く速さを確かめている。
できる人だというのは、すぐわかった。
いいな、こういう人、うちに――私の執事として雇いたいな。
「こちらでございます」
「ありがとうございます」
案内されたのは、長い廊下を渡り切って、たぶん離れの部屋の前。
木の扉には、鉄の補強がされていてとても重そうな扉だった。
老人はゆっくり腕を上げると、その扉を叩く。
「入れ」の声に、ゆっくりと扉を開いた。
「失礼いたします。カイゼン嬢をお連れいたしました」
「ご苦労。入れてくれ」
この声は、イリだ。
一礼して老人が道を開けてくれると、とても広い部屋に腕組をして立っているイリと、赤と金の模様が豪華な長椅子に腰掛けてモアディさまがいた。
「お邪魔いたします」
深く礼をして、私は部屋に入る。
外で会うのと違う、ここには重い空気が流れていた。
「来ていただいて、すみません」
立ちあがったモアディさまに、首を振って見せた。
「モアディさまに時間を割いていただいて感謝いたします」
「あれ?」
イリが、私とモアディさまの間に入ってきた。
「さんがさまに変わったな。どういう心境?」
「え?」
突っ込まれると思わなかった。
「モアディさまは高位の魔法師で、さんでは失礼だと思ったからよ。それに、たくさん助けてもらってるし」
「ふぅん」
イリは、面白くなさそうに鼻を鳴らした。
もしかして嫉妬しているの?
私がモアディさまを敬うから。
「イリもそうして欲しければしますよ、イリさま」
「よせよせ、いつものようにしてくれ気持ち悪い」
手を振ってそんなに否定されると、傷つくんですけど。
「お話を聞きます。が、いま時間をとることができません。簡潔に」
それはそうですね、有事真っ最中なのだから。
軍所属のモアディさまも、こんな小娘に時間を割くのは惜しいだろう。
「ありがとうございます。単刀直入に申しますが、スハジャ公国領地に赴くのを中止していただきたいのです」
「なっ、なぜお前が知っている!」
声を荒げたのはイリだった。
モアディさまは、眉間にしわを寄せただけ。
「なぜ、私たちがスハジャに行くことを知っているんですか? 人選についてはかん口令を出したはずです」
「え? モアディさまたちも行くんですか!?」
私たち? そう言ったわよね?
それは頭になかった私は、一瞬で思考が真っ白になった気がした。
ガチンと、合わさった剣の音が響く。
城の堀をわたり、格子が下げられた門の前にいた二人の門番。
とても怪しい女の私が近づくと、睨みをきかせ剣で道を塞いだ。
門番として、正解の行動ね。
「何用だ、女」
ガタイのいい、右の門番の男。
「帰れ」
見上げるほどに背の高い左の門番。
「呼ばれてまいりました。私はリーディア・カイゼン。こちらを見せるように言われています」
怯まない。
ピンと背筋を伸ばして、堂々と。
私、招待されてるんだから。
姿勢は大事と、淑女の基本で習ったわ。
「これは……」
私が見せた紙に、門番は驚きの声を上げた。
紙と私を交互に見る。
ちらっとその手元を見たら、紋が赤く浮き出ていた。
あれは王家の紋章。
さっきまで、モアディさまの署名しかなかったのに。
「失礼しました。どうぞお通りください」
ざっと道が開けられる。
「ありがとうございます」
私は二人に会釈して、城の中へと踏み入れた。
すぐ別の兵が駆け寄ってきたけど、また例の紙を見せたらすんなり奥へと通してくれた。
石畳の敷かれた広い城内。
生前、数度来たことがあるけれど、あれは宴のときだったから雰囲気がまるで違っているように感じる。
どこか冷たく、そして暗い感じがした。
「カイゼン嬢、こちらへ」
兵に案内され、城の執事の一人が私の対応に出てきた。
とても静かに話す老人で、私にとても丁寧に頭を下げてくれた。
「お寒くはありませんか?」
「大丈夫です」
私の足に合わせた歩幅、視線だけちらっと私を見て歩く速さを確かめている。
できる人だというのは、すぐわかった。
いいな、こういう人、うちに――私の執事として雇いたいな。
「こちらでございます」
「ありがとうございます」
案内されたのは、長い廊下を渡り切って、たぶん離れの部屋の前。
木の扉には、鉄の補強がされていてとても重そうな扉だった。
老人はゆっくり腕を上げると、その扉を叩く。
「入れ」の声に、ゆっくりと扉を開いた。
「失礼いたします。カイゼン嬢をお連れいたしました」
「ご苦労。入れてくれ」
この声は、イリだ。
一礼して老人が道を開けてくれると、とても広い部屋に腕組をして立っているイリと、赤と金の模様が豪華な長椅子に腰掛けてモアディさまがいた。
「お邪魔いたします」
深く礼をして、私は部屋に入る。
外で会うのと違う、ここには重い空気が流れていた。
「来ていただいて、すみません」
立ちあがったモアディさまに、首を振って見せた。
「モアディさまに時間を割いていただいて感謝いたします」
「あれ?」
イリが、私とモアディさまの間に入ってきた。
「さんがさまに変わったな。どういう心境?」
「え?」
突っ込まれると思わなかった。
「モアディさまは高位の魔法師で、さんでは失礼だと思ったからよ。それに、たくさん助けてもらってるし」
「ふぅん」
イリは、面白くなさそうに鼻を鳴らした。
もしかして嫉妬しているの?
私がモアディさまを敬うから。
「イリもそうして欲しければしますよ、イリさま」
「よせよせ、いつものようにしてくれ気持ち悪い」
手を振ってそんなに否定されると、傷つくんですけど。
「お話を聞きます。が、いま時間をとることができません。簡潔に」
それはそうですね、有事真っ最中なのだから。
軍所属のモアディさまも、こんな小娘に時間を割くのは惜しいだろう。
「ありがとうございます。単刀直入に申しますが、スハジャ公国領地に赴くのを中止していただきたいのです」
「なっ、なぜお前が知っている!」
声を荒げたのはイリだった。
モアディさまは、眉間にしわを寄せただけ。
「なぜ、私たちがスハジャに行くことを知っているんですか? 人選についてはかん口令を出したはずです」
「え? モアディさまたちも行くんですか!?」
私たち? そう言ったわよね?
それは頭になかった私は、一瞬で思考が真っ白になった気がした。
