「聞いていいの? 凄い大事な選択ではないけど」
ただ不安なだけ。
だけど、クリアリの次の言葉を聞いたらいいかって気持ちになった。
『アーリアなんて、明日のパーティーのドレスは何色にしようなんてことも聞いていたわよ』
お母さまったら……。
神器がこんなに身近になると、ありがたさとかが薄れてしまうのかしら。
『早くして、眠いの』
クリアリが、机の上の便箋を指さす。
「う、うん。なんて書こう」
『知りたいことよ。天秤は汲んでくれるから簡潔にで大丈夫』
クリアリの言葉に、私はうなずいてペンを持つ。
【巻き込まれる】【巻き込まれない】
そう書いた。
【巻き込まれる】を右に。
【巻き込まれない】を左に置く。
まだ天秤は均衡を保っている。
クリアリは、口の中のお菓子をお茶で流し込むと、ゆっくり立ちあがって衣を整えた。
パラパラと、こぼれた食べこぼしには目をつむろう。
『審判』
クリアリの神聖な声が、部屋に響く。
天秤が光に包まれた。
カチャリ。
少し軽い金属音、ゆっくりと天秤が傾く。
「そんな……」
結果に、私は膝から崩れ落ちた。
右に傾いた天秤。
クリアリは、ひとつため息をついた。
『これは、まだ起きていない結果よ。あなたが変えるしかない。あなたなら変えられるわ』
頭上の声に、力なく首を振る。
「できないわよ。どうしたらいいかわからないんだもの」
自分でも、力のない声だと思った。
私は誰も救えないの?
なぜユハスさままで?
もしかして、私が死を呼んでいるの?
『簡単にあきらめていいの?』
「だって……」
だって、私なんかが政治に干渉できるはずがない。
王子の失脚を覆せないし、なんの力もないのに噴火も止められない。
完全に詰んでるじゃない。
私だけが助かった。
そして歴史が狂い始めた。
『ちょっと来なさい』
クリアリは、ちょいちょいと手を動かして私を招く。
「ぐすっ」
私は垂れかけた鼻水をすすって、立ちあがった。
『汚い顔。ほらもっと寄ってきて』
「ぐすっ」
いま下を向いたら、垂れちゃいそうなんだけど。
それでも、クリアリが手招くから、私はクリアリに顔を寄せた。
『はい、鼻かんで』
「チーン」
差し出された薄紙で、鼻をかむ。
クリアリは、その衣でぐちゃぐちゃの私の顔を拭いてくれた。
シルクなんだろうか、とても肌に心地いい。
「服、汚れちゃう」
『大丈夫。天秤に帰れば元に戻るわ』
どんな仕組み?
なんて便利なんだろう。
『ほら、おでこ貸して』
そう言って、私に向かって両手を広げる。
またあれをやるのね。
クリアリと、私の額をくっつける。
じんわりと、暖かい何かが流れてきた。
「クリアリ……」
『シ。黙ってなさい』
それはまるで、日向でお母さまが背を撫でてくれていたときのような気持ちよさで、私はうっとりと目を閉じた。
大丈夫、大丈夫。
ディアにはできるわ、私の子だもの。
あの優しい時間を思い出し、ゆっくりと心が落ち着く。
『あなた、何度も本を落としたのね』
私の思い出をのぞいたクリアリは、そう言ってほほ笑んだ。
「淑女試験でね、私だけ本をのせてまっすぐ歩けなくて、何度も本を落として」
淑女の教えの授業を落とすかもと泣いて、泣いて、絶望してた。
でもお母さまが私ならできるって。
『どうかやらない前からあきらめないで』
「うん」
あのあと、お母さまは本では危機感が足りないのかしらと頭にのせるものを本からティーカップセットにかえた。
3つぐらい割ったかしら。
でもあの訓練で、私は優秀を勝ち取れたのよね。
とにかく、城に入れるチャンスはあるわけだし、この先どう転ぶかはまだわからないんだもの。
「ありがとう、クリアリ。あなたがいてくれて、本当に良かった」
私には天秤とクリアリがいてくれる。
ディア、あなたならできるわ。
背中を押してくれた。
ただ不安なだけ。
だけど、クリアリの次の言葉を聞いたらいいかって気持ちになった。
『アーリアなんて、明日のパーティーのドレスは何色にしようなんてことも聞いていたわよ』
お母さまったら……。
神器がこんなに身近になると、ありがたさとかが薄れてしまうのかしら。
『早くして、眠いの』
クリアリが、机の上の便箋を指さす。
「う、うん。なんて書こう」
『知りたいことよ。天秤は汲んでくれるから簡潔にで大丈夫』
クリアリの言葉に、私はうなずいてペンを持つ。
【巻き込まれる】【巻き込まれない】
そう書いた。
【巻き込まれる】を右に。
【巻き込まれない】を左に置く。
まだ天秤は均衡を保っている。
クリアリは、口の中のお菓子をお茶で流し込むと、ゆっくり立ちあがって衣を整えた。
パラパラと、こぼれた食べこぼしには目をつむろう。
『審判』
クリアリの神聖な声が、部屋に響く。
天秤が光に包まれた。
カチャリ。
少し軽い金属音、ゆっくりと天秤が傾く。
「そんな……」
結果に、私は膝から崩れ落ちた。
右に傾いた天秤。
クリアリは、ひとつため息をついた。
『これは、まだ起きていない結果よ。あなたが変えるしかない。あなたなら変えられるわ』
頭上の声に、力なく首を振る。
「できないわよ。どうしたらいいかわからないんだもの」
自分でも、力のない声だと思った。
私は誰も救えないの?
なぜユハスさままで?
もしかして、私が死を呼んでいるの?
『簡単にあきらめていいの?』
「だって……」
だって、私なんかが政治に干渉できるはずがない。
王子の失脚を覆せないし、なんの力もないのに噴火も止められない。
完全に詰んでるじゃない。
私だけが助かった。
そして歴史が狂い始めた。
『ちょっと来なさい』
クリアリは、ちょいちょいと手を動かして私を招く。
「ぐすっ」
私は垂れかけた鼻水をすすって、立ちあがった。
『汚い顔。ほらもっと寄ってきて』
「ぐすっ」
いま下を向いたら、垂れちゃいそうなんだけど。
それでも、クリアリが手招くから、私はクリアリに顔を寄せた。
『はい、鼻かんで』
「チーン」
差し出された薄紙で、鼻をかむ。
クリアリは、その衣でぐちゃぐちゃの私の顔を拭いてくれた。
シルクなんだろうか、とても肌に心地いい。
「服、汚れちゃう」
『大丈夫。天秤に帰れば元に戻るわ』
どんな仕組み?
なんて便利なんだろう。
『ほら、おでこ貸して』
そう言って、私に向かって両手を広げる。
またあれをやるのね。
クリアリと、私の額をくっつける。
じんわりと、暖かい何かが流れてきた。
「クリアリ……」
『シ。黙ってなさい』
それはまるで、日向でお母さまが背を撫でてくれていたときのような気持ちよさで、私はうっとりと目を閉じた。
大丈夫、大丈夫。
ディアにはできるわ、私の子だもの。
あの優しい時間を思い出し、ゆっくりと心が落ち着く。
『あなた、何度も本を落としたのね』
私の思い出をのぞいたクリアリは、そう言ってほほ笑んだ。
「淑女試験でね、私だけ本をのせてまっすぐ歩けなくて、何度も本を落として」
淑女の教えの授業を落とすかもと泣いて、泣いて、絶望してた。
でもお母さまが私ならできるって。
『どうかやらない前からあきらめないで』
「うん」
あのあと、お母さまは本では危機感が足りないのかしらと頭にのせるものを本からティーカップセットにかえた。
3つぐらい割ったかしら。
でもあの訓練で、私は優秀を勝ち取れたのよね。
とにかく、城に入れるチャンスはあるわけだし、この先どう転ぶかはまだわからないんだもの。
「ありがとう、クリアリ。あなたがいてくれて、本当に良かった」
私には天秤とクリアリがいてくれる。
ディア、あなたならできるわ。
背中を押してくれた。
