『そう、なぜかしらね』
クリアリに、今日のことを話した。
あの言葉が私にではなくクミンに向けられたこと。
時期が早まっていること。
「噴火も早くなったりするかな」
『それはわからないわ。だいたい、あなたが今こうしてここにいることが何らかの力が働いているのだから、前と同じにはならないわよ』
それはそうだけど、不安になる。
大筋が変わらなければ、意味がない。
『ところで』
大真面目な顔のまま、クリアリが私を見つめる。
なにかに気づいたのだろうか。
ぎくりとした。
『今日の焼き菓子は?』
「え? あ、はいはいっ」
そんな真顔で言うから、何を言われるのかと構えちゃったのに、クリアリったら。
私は棚にしまってある焼き菓子から、木の実が香ばしいバターたっぷりのケーキを一口サイズに切り分けて、小さく畳んだ紙の上に乗せた。
『ありがとう』
もうにっこりといい笑顔ですこと。
『ユーがいないと、長椅子がいるわね』
それは、今度買ってこいと言うことかな?
ユーも、椅子代わりにされていることにも文句言えばいいのに、クリアリに寄り添うから微笑ましさしかない。
『で、なにをときめいたのかしら? 話と、あなたの顔が嚙み合わないわ』
「え?」
顔に出てる!?
バッと後ろの鏡を振り返って確認したけど、いつもの顔だ。
『ばかね。ほんと』
かまだったの? なにを指してばか?
私は恥ずかしいのと悔しいので、手で顔を覆った。
「なんでわかったの?」
『恋は隠せないものよ』
ふふふと意味ありげに口角をあげて、クリアリは言った。
恋? 違う、違うわ。
恋しちゃいけない人よ。
「ユハスさまが、別れ際に言ったの」
門までお見送りをとクミンは騒いだけれど、ユハスさまは私にお話があるとかで丁重に断っていた。
「妹のために時間を割いていただき、感謝します」
別れ際、言いたくなかったけどユハスさまにそう言った。
ユハスさまは、やはりちょっと困った微笑みを返してくれたけれど、「いいんですよ」と優しい口調で返してくれた。
そして。
「この屋敷に来れば、あなたに会えますから」
そう言ってくれたのだ。
クミンのためじゃなく、私に会いたいから引き受けたんだと。
少し照れくさそうに。ぽつりと。
そんなことを言われて、私は耳まで赤く染めてしまったのだけれど。
『ふぅん』
なのに、クリアリは面白くなさそうな顔で気のない相槌。
聞いておいて、なんて態度。
「そのお菓子は、ユハスさまからの差し入れよ」
『そう。美味しいわ、ふぐふぐ。礼言っといて』
感謝しているような態度に、まったく見えないけどね。
「だけど、遠征が入っているからしばらくはこれないって」
行ってほしくない。
行かないでとあの場で言えたら。
だけど、ユハスさまの仕事に私が口を出すわけにはいかない。
説明もできないのだし。
『巻き込まれるわね』
クリアリの言葉に、ドンと胸を突かれた。
『何か、運命が回ってる。天秤に聞く? この遠征時期が、噴火に係るかを』
「天秤に……」
もし天秤が違うと出してくれたら、ユハスさまは巻き込まれないで済む。
『書きなさいよ。お菓子の礼に、審判してあげる』
