女神は天秤を傾ける

 頼みごとがる、とお父さまは突然切り出してきた。
 回りくどいのは時間の無駄だから、いいのだけれど、怖い。


「頼み事ですか? 私にできることなら協力いたしますが。私はリー……」
「クミンの家庭教師を引き受けて欲しい」


 お父さまは、ユハスさまが私の名前を出しかけたのをかき消すすように言葉を重ねた。 
 ユハスさまはなんと続けるつもりだったのだろう。
 私は――――のあとに、なんと。


「クミンさまの? 家庭教師をですか?」

 少し困ったように、ユハスさまは私を見た。
 私も、苦笑いでしか返せない。

「お父さま」
 ユハスさまは忙しいお方。
 それなのに、そんなことを頼むなんて。

 そう言おうと、呼びかけたお父さま。
 やっと私を視界に入れた。

「リーディア、お前からも頼んで欲しい。お前の妹なんだよ、クミンは」

 静かに穏やかな、口調。
 でも、私は圧を感じた。

 私は認めたくないものを、認めて飲み込めと。


「お姉さまも嬉しいでしょ? 私が一緒に学ぶの」

 その笑顔は、どこまで純粋なの?
 にこにこと本当にそうしたいと、望んでいるという顔をしているけれど。
 最初は、私にその話が来た。
 とことこと離れにやってきたクミンは、勉強に来たというのに道具さえ持ってこなかったので、私の本を読ませてみたところ単語を間違えて覚えていて、読みもつたなければ理解も薄いようだった。
 私なりに優しく指導したつもりだったのに、あなたは私に虐められるとお父さまに嘘をついて、怒ったお父さまは私に学園などお間には必要ないと命じた。
 あなただけが通うことになるのに。

 そして、ユハスさまが家に通うことになる。

「リーディア、クミンだって我が家の大事な娘だ。教養を与えたいのだよ」

 嘘です。
 大事な娘は、クミンだけだったでしょう? お父さま。
 私も大事たったら、ユハスさまをとなんて言わないはず。

「ユハスさま、どうか……」

 断ってください、無理ですと。
 お誕生日会の時は、話を遮るようにしましたよね。
 そんな面倒なこと、本当は引き受けたくないはず。
 未来が変わっていれば、頼まれたところで断るかもしれない。

 でもユハスさまは、困った顔をしていたけど、あの日と同じ言葉を吐いた。


「では、任務の合間に、こちらへ赴きます」


 この言葉を、前よりずっと早く聞くことになった。