「それで、本日はなぜ呼ばれたのでしょう」
ユハスさまの言葉に、ハッとしたハモラはにこりと微笑んだ。
「あの、馬を…」
「わかってます!」
私の進言には、途中で遮って睨みつける。
「玄関先でごめんなさいね。主人はもう卓についておりますの。どうぞこちらへ」
ハモラは当たり前のように主人とお父さまのことを呼んだ。
本題も持ち越された。
ザワつくわ。
「ようこそ、ユハスくん」
お父さまは、いつも座っている食卓の一番奥で、ワインを傾けていた。
あの赤色、嫌な記憶が蘇る。
「先日は我が家にお越しくださり……」
きちんと礼儀を通そうとするユハスさまを、お父さまは片手をあげて制してしまった。
「堅苦しいのは今日はいい。座ってくれ」
指したのは、お父さまの左前の席だった。
私も呼ばれているはずなのに、お父さまは私を見ようともしない。
クミンとハモラは、ユハスさまの対面に陣取ってしまった。
長女は私で、ユハスさまと婚約するのはまだ私なのに。
そこに座ってはいけないようだ。
ではどの席に、とちょっと考えていたら、運ばれたお茶がみんなと少し離れたところに用意されたので、暗にそこへ座れと言うことなのだろう。
誰も席をひいてくれないので、自分でひいて席についた。
なんでしょう、この距離。
早くも、私をはじきたいのね。
そして、それをユハスさまにも見せたいというところかしら。
「ちょっと珍しいお茶を、妻が取り寄せてくれたんだ。飲んで行ってやってくれ」
お茶?
記憶の中にある、あのお茶の事かしら。
凄くスパイシーな、匂いもきつければ味も馴染めないもので。
お父さまは、あのお茶を美味しいと思っているのかしら。
危惧していると、ハモラが雇ったやはり肌の浅黒い使用人がうやうやしく運んできて私の前にも置かれた。
やっぱり。
ミルクと割ってあるけれど、カップの中に香木が刺さったあのお茶だ。
「どうぞ」
ハモラはにこやかに勧めてはいるけれど、この国の人間は総じて苦手だと思う。
いただきますと言ったユハスさまの笑顔も、心なしかぎこちなく見えた。
「これは独自にスパイスを調合した特別なお茶で、私の国ではとても高価なものなの。そのモダの枝でかき混ぜながら飲むんですよ」
「え、えぇ」
初めての飲み方に、ユハスさまが戸惑っている。
鼻の近くにもっていかなくても、香ってくる刺激的な香り。
最初にこれを持ってくるなんて、実はユハスさまや私を試すためなのかもしれない。
「お、面白い味のお茶ですね」
「でしょ、でしょ。美味しいでしょ!」
大人の対応で返すユハスさまに、クミンはそれを読み取らずにいる。
面白い空気の場になった。
私は口を開かないでいよう。
もちろん、出されているお茶にも口をつけない。
チラチラとハモラが私を見るけど、無視。
「クミンがいたとこはね、とても暑いところなの。ここは『冬』があるんですってね。いまから怖いわ」
ごくごくお茶を飲み干し、添えられた焼き菓子に手をのばし、ユハスさまを瞬き多めに見つめる。
この動作が、男には小鳥が餌をついばみながら頭を撫でてとせがむように見えるらしい。
男性の評判がよかったクミンだが、特に食事にはよく誘われていた。
「大丈夫だよ、クミン。雪が降るような寒い日には炭を燃やし続けるから」
少なくとも、お父さまにはそう見えている。
「雪も冷たいばかりではありませんよ」
「え……」
ユハスさまの言葉に、思わず声が出てしまった。
その言葉は、その言葉は私が言ってもらった言葉だ。
雪の朝、炭を私にと届けてくれたユハスさまがそう言って、陽にキラキラと結晶が輝くのを指さして微笑んだ。
「雪? あの雨が凍るってやつ?」
見たこともない人には、想像すらできないでしょう、あの美しさを。
「ユハスくん、きみに頼みごとがあってね」
お父さまは、口元に手を組んでじっとユハスさまを見た。
ユハスさまの言葉に、ハッとしたハモラはにこりと微笑んだ。
「あの、馬を…」
「わかってます!」
私の進言には、途中で遮って睨みつける。
「玄関先でごめんなさいね。主人はもう卓についておりますの。どうぞこちらへ」
ハモラは当たり前のように主人とお父さまのことを呼んだ。
本題も持ち越された。
ザワつくわ。
「ようこそ、ユハスくん」
お父さまは、いつも座っている食卓の一番奥で、ワインを傾けていた。
あの赤色、嫌な記憶が蘇る。
「先日は我が家にお越しくださり……」
きちんと礼儀を通そうとするユハスさまを、お父さまは片手をあげて制してしまった。
「堅苦しいのは今日はいい。座ってくれ」
指したのは、お父さまの左前の席だった。
私も呼ばれているはずなのに、お父さまは私を見ようともしない。
クミンとハモラは、ユハスさまの対面に陣取ってしまった。
長女は私で、ユハスさまと婚約するのはまだ私なのに。
そこに座ってはいけないようだ。
ではどの席に、とちょっと考えていたら、運ばれたお茶がみんなと少し離れたところに用意されたので、暗にそこへ座れと言うことなのだろう。
誰も席をひいてくれないので、自分でひいて席についた。
なんでしょう、この距離。
早くも、私をはじきたいのね。
そして、それをユハスさまにも見せたいというところかしら。
「ちょっと珍しいお茶を、妻が取り寄せてくれたんだ。飲んで行ってやってくれ」
お茶?
記憶の中にある、あのお茶の事かしら。
凄くスパイシーな、匂いもきつければ味も馴染めないもので。
お父さまは、あのお茶を美味しいと思っているのかしら。
危惧していると、ハモラが雇ったやはり肌の浅黒い使用人がうやうやしく運んできて私の前にも置かれた。
やっぱり。
ミルクと割ってあるけれど、カップの中に香木が刺さったあのお茶だ。
「どうぞ」
ハモラはにこやかに勧めてはいるけれど、この国の人間は総じて苦手だと思う。
いただきますと言ったユハスさまの笑顔も、心なしかぎこちなく見えた。
「これは独自にスパイスを調合した特別なお茶で、私の国ではとても高価なものなの。そのモダの枝でかき混ぜながら飲むんですよ」
「え、えぇ」
初めての飲み方に、ユハスさまが戸惑っている。
鼻の近くにもっていかなくても、香ってくる刺激的な香り。
最初にこれを持ってくるなんて、実はユハスさまや私を試すためなのかもしれない。
「お、面白い味のお茶ですね」
「でしょ、でしょ。美味しいでしょ!」
大人の対応で返すユハスさまに、クミンはそれを読み取らずにいる。
面白い空気の場になった。
私は口を開かないでいよう。
もちろん、出されているお茶にも口をつけない。
チラチラとハモラが私を見るけど、無視。
「クミンがいたとこはね、とても暑いところなの。ここは『冬』があるんですってね。いまから怖いわ」
ごくごくお茶を飲み干し、添えられた焼き菓子に手をのばし、ユハスさまを瞬き多めに見つめる。
この動作が、男には小鳥が餌をついばみながら頭を撫でてとせがむように見えるらしい。
男性の評判がよかったクミンだが、特に食事にはよく誘われていた。
「大丈夫だよ、クミン。雪が降るような寒い日には炭を燃やし続けるから」
少なくとも、お父さまにはそう見えている。
「雪も冷たいばかりではありませんよ」
「え……」
ユハスさまの言葉に、思わず声が出てしまった。
その言葉は、その言葉は私が言ってもらった言葉だ。
雪の朝、炭を私にと届けてくれたユハスさまがそう言って、陽にキラキラと結晶が輝くのを指さして微笑んだ。
「雪? あの雨が凍るってやつ?」
見たこともない人には、想像すらできないでしょう、あの美しさを。
「ユハスくん、きみに頼みごとがあってね」
お父さまは、口元に手を組んでじっとユハスさまを見た。
