「びっくりしたどうしたの」
問いかけに、ユー瞬きを数回繰り返した。
なぜかちょっとうるんでいて可愛い。
『早く開けてあげなさい』
「え?」
クリアリに言われて、やっと気づいた。
窓の外、ぽわぽわの毛をもった夜鳴鳥……幼鳥だ!
「ごめんね」
窓を開けると、トントン、と中へ入ってきてククルと鳴いた。
ぱさりとその隣に、ユーが降り立つとその幼鳥はぴとっとユーにくっついた。
ユーもその首元にくちばしを沈めて、撫でている。
可愛いっ。
「ひょっとして、ユーの子!?」
キュピ。
私の言葉を理解しているのか、返事のように幼鳥は鳴いた。
お前もおりこうさんなのね。
『足に文《ふみ》があるわよ。そろそろ来る頃だと思ってたけど』
来る? なにが?
わかっていたのなら、先に教えてほしいわよ、クリアリ。
「モアディさまからだわ」
細く折りたたまれていた文には、モアディ・バイロンの署名。
そして、私の名前が記されていた。
『それでは入れるわね』
「え? これで?」
私の名前と、モアディさまの名前しか記していないこの紙で?
『門番にそれを見せたら、ザっと道を開けてくれていい部屋に案内してくれるわよ』
へぇー、こんな紙でね。
聞いたら、この紙からは魔術の気配を感じるからなにかの細工がしてあるのだろうと言う。
クリアリは気配しか感じないから、仕組みまではわからないらしい。
城にはいったことは、ある。
なにかの祝い事があると貴族が召集されるから、母も元気だった子供のころはよくついて行って美味しいケーキをたくさん頬張ったもので。
思い出したわ。
「そういえば、お母さまはよく城で出された焼き菓子を包んで持ち帰っていたけど……」
『城で出されるのは、ほんと美味しかったわね』
クリアリ用だったのね。
ずっと、お母さまが夜中に口にする「《《大人の》》おやつ」だと思っていた。
「わかった。天秤も言ってるし、ユーのヒナも頑張って届けてくれたし、城に行くわ」
『早い方がいいわよ。焼き菓子もうないし』
「…………」
早い方がいい理由は、まさかそれ?
『もう帰るわ。夜鳴鳥も、ヒナと帰してあげるのよ。ヒナは狙われるんだからね』
「え!? わ、わかった。ユーと帰っていいよ。すぐ文を書くわ」
どの鳥だってヒナは狙われるけど、賢い夜鳴鳥もなのね。
そんな危ないことを、このぽわぽほした子はしてくれたのね。
『じゃ、気を付けてお帰りなさい』
クリアリは、ユーとヒナをひと撫でしてすっと消えていった。
私は急いで「明日行きます」と文を書き、ユーにくくる。
「気をつけて、よろしくお願いね」
言葉をかけて、窓を開けると二羽の夜鳴鳥はクイッと鳴いて仲良く飛び立った。
ユーに比べて、 ヒナの羽ばたきは上下に揺れてとてもつたなかったけれど、ユーが一緒なら大丈夫よね。
その姿が見えなくなるまで見送って、私は窓を閉めた。
ガンガン。
「ひっ……」
重い扉につけられた金属製のドアノッカーが重い音を鳴らした。
イリやモアディさんじゃない。いくらなんでも、こんな早く文はつかないし、城でと決めたのだし。
「だ、誰?」
扉の向こうの気配に、問いかける。
「夜分にすみません、お嬢さま」
知らない男の声だけど、私をお嬢さまと呼ぶこの口調はうちの使用人?
「何の用ですか?」
一応扉は開けない。
もし先日の悪漢だったら……あぁ、でも結界に反応しないってことは使用人で間違いないだろう。
「明日、朝食後に来るようにと、旦那さまの命でございます」
「お父さまの?」
変だ。
ここに近寄らないし、私が向こうに行くこともいい顔しなかった。
それが呼ばれるなんておかしい。
また何かが変わろうとしている。
「明日はお客様もいらっしゃいますので、身なりを整えるようにと旦那様と奥様からドレスを預かっております」
「ドレスを?」
一体誰が?
私にドレスを用意するなんて、ますます変だ。
ガチャリと扉を開くと、頭を下げたまま使用人は箱を差し出した。
「こちらをお召になっていらしてください」
「……わかりました」
訝しいけれど、ここで拒絶したらますます次に何が起こるかわからないので、私はその箱を受け取った。
「では、おやすみなさいませ、お嬢様」
「ご苦労さまでした」
更に深く頭を下げた使用人に、声を掛ける。
去ってゆく背中は、ホッとしているようにも見えた。
私がごねたら、あの使用人は責任を取らされるかもしれないものね。
ここへ来るのを怯えるのはわかる。
私になびいたら、自分の未来はなくなる。
使用人が私を「いないように」扱っていたことを、私は思い出した。
問いかけに、ユー瞬きを数回繰り返した。
なぜかちょっとうるんでいて可愛い。
『早く開けてあげなさい』
「え?」
クリアリに言われて、やっと気づいた。
窓の外、ぽわぽわの毛をもった夜鳴鳥……幼鳥だ!
「ごめんね」
窓を開けると、トントン、と中へ入ってきてククルと鳴いた。
ぱさりとその隣に、ユーが降り立つとその幼鳥はぴとっとユーにくっついた。
ユーもその首元にくちばしを沈めて、撫でている。
可愛いっ。
「ひょっとして、ユーの子!?」
キュピ。
私の言葉を理解しているのか、返事のように幼鳥は鳴いた。
お前もおりこうさんなのね。
『足に文《ふみ》があるわよ。そろそろ来る頃だと思ってたけど』
来る? なにが?
わかっていたのなら、先に教えてほしいわよ、クリアリ。
「モアディさまからだわ」
細く折りたたまれていた文には、モアディ・バイロンの署名。
そして、私の名前が記されていた。
『それでは入れるわね』
「え? これで?」
私の名前と、モアディさまの名前しか記していないこの紙で?
『門番にそれを見せたら、ザっと道を開けてくれていい部屋に案内してくれるわよ』
へぇー、こんな紙でね。
聞いたら、この紙からは魔術の気配を感じるからなにかの細工がしてあるのだろうと言う。
クリアリは気配しか感じないから、仕組みまではわからないらしい。
城にはいったことは、ある。
なにかの祝い事があると貴族が召集されるから、母も元気だった子供のころはよくついて行って美味しいケーキをたくさん頬張ったもので。
思い出したわ。
「そういえば、お母さまはよく城で出された焼き菓子を包んで持ち帰っていたけど……」
『城で出されるのは、ほんと美味しかったわね』
クリアリ用だったのね。
ずっと、お母さまが夜中に口にする「《《大人の》》おやつ」だと思っていた。
「わかった。天秤も言ってるし、ユーのヒナも頑張って届けてくれたし、城に行くわ」
『早い方がいいわよ。焼き菓子もうないし』
「…………」
早い方がいい理由は、まさかそれ?
『もう帰るわ。夜鳴鳥も、ヒナと帰してあげるのよ。ヒナは狙われるんだからね』
「え!? わ、わかった。ユーと帰っていいよ。すぐ文を書くわ」
どの鳥だってヒナは狙われるけど、賢い夜鳴鳥もなのね。
そんな危ないことを、このぽわぽほした子はしてくれたのね。
『じゃ、気を付けてお帰りなさい』
クリアリは、ユーとヒナをひと撫でしてすっと消えていった。
私は急いで「明日行きます」と文を書き、ユーにくくる。
「気をつけて、よろしくお願いね」
言葉をかけて、窓を開けると二羽の夜鳴鳥はクイッと鳴いて仲良く飛び立った。
ユーに比べて、 ヒナの羽ばたきは上下に揺れてとてもつたなかったけれど、ユーが一緒なら大丈夫よね。
その姿が見えなくなるまで見送って、私は窓を閉めた。
ガンガン。
「ひっ……」
重い扉につけられた金属製のドアノッカーが重い音を鳴らした。
イリやモアディさんじゃない。いくらなんでも、こんな早く文はつかないし、城でと決めたのだし。
「だ、誰?」
扉の向こうの気配に、問いかける。
「夜分にすみません、お嬢さま」
知らない男の声だけど、私をお嬢さまと呼ぶこの口調はうちの使用人?
「何の用ですか?」
一応扉は開けない。
もし先日の悪漢だったら……あぁ、でも結界に反応しないってことは使用人で間違いないだろう。
「明日、朝食後に来るようにと、旦那さまの命でございます」
「お父さまの?」
変だ。
ここに近寄らないし、私が向こうに行くこともいい顔しなかった。
それが呼ばれるなんておかしい。
また何かが変わろうとしている。
「明日はお客様もいらっしゃいますので、身なりを整えるようにと旦那様と奥様からドレスを預かっております」
「ドレスを?」
一体誰が?
私にドレスを用意するなんて、ますます変だ。
ガチャリと扉を開くと、頭を下げたまま使用人は箱を差し出した。
「こちらをお召になっていらしてください」
「……わかりました」
訝しいけれど、ここで拒絶したらますます次に何が起こるかわからないので、私はその箱を受け取った。
「では、おやすみなさいませ、お嬢様」
「ご苦労さまでした」
更に深く頭を下げた使用人に、声を掛ける。
去ってゆく背中は、ホッとしているようにも見えた。
私がごねたら、あの使用人は責任を取らされるかもしれないものね。
ここへ来るのを怯えるのはわかる。
私になびいたら、自分の未来はなくなる。
使用人が私を「いないように」扱っていたことを、私は思い出した。
