女神は天秤を傾ける

「だめだった……」

 城にユーを飛ばした後、返信はすぐ来た。
 すぐ往復させられたユーは、もうゼーハーと肩で息してるほど疲れ切ってしまって、かわいそうなぐらい。

『お疲れ様ね』
 ポンポンといたわるようにユーの首あたりを撫ぜたクリアリだけど、やっぱり長椅子のように寄りかかっていて、ユーの荒い呼吸にあわせてクリアリの身体も揺れてるのが少し微笑ましい光景だった。

 事態は急を要しているのだから、和んでる場合ではなかったのだけど。

『断られてはいないのでしょう? いま忙しいってだけで』
「そうだけど、止めるのは手紙とかじゃ弱いわ。会って説得しないと」

 ユーが運んできてくれた文には、いま忙しくてそちらには行けない、とあった。
 でも確かに絶望するのは早い。続きがあった。


【私が動けるまでお待ちいただくか、城へいらしてください】

と。

 待てない。でも城?
 祭事でお母さまと数度訪れたことはあるが、まだ私が子供だった頃。

 貴族とはいえ、そうそう城に入ることなんてないのだ。
 お茶会に行くのと訳が違う。
 まだ成人もしていない女が、城に入れる?

『何を躊躇うのかわからないけど、背中を押して欲しいなら天秤に聞いてみなさい』
「そ、そうよね。うん」

 私はガラスペンをとり『城』『家』と紙に書いて天秤に置く。


『審判』

クリアリの声が響いた。
ゆっくりと、ゆっくりと、天秤は傾く。

「城っ!?」
 少し待てば来てくれるかもしれない期待の「家」と、向こうの言う「城」を天秤にかけたその結果が、これ。
 確かに、いつになるかわからない訪問を待つのは、手遅れになるかもしけないけれど。

「城なんて、簡単に入れないよぉ」


『向こうが呼んだんだから、入れるんじゃない?』
「そんな……」

 のんきすぎる。
 審判が終わると、ユーをソファー代わりにしてお茶を飲み、ジャムサンドをぱくつきながらなんて。
 のんきを通り越し過ぎてる。
 
『城はそんなところじゃないわ。王族が棲んでるただの家よ。ちょっと…大きすぎるけど』
「クリアリ?」

『天井高くて、石造りで、だから冬は寒いし』
「もしかして、城にいたことがあるの?」

『だって私、城の神器だったもの』
「えぇっ!?」

 サラっとした告白に、私はびっくりして大きな声を出してユーをびくっとさせてしまった。

『もぅっ、お茶がこぼれちゃったじゃない』
「ご、ごめんなさい」

 白い衣にできてしまったシミを、クリアリは気にしているけど私はそれどころじゃなかった。
「城の神器がなんでうちに!?」

『うーん……』
 クリアリはなんだかめんどくさそうに立ちあがった。
『話せば長くなるから簡潔に言うけど、アーリアに与えられたのよ』

「お母さまに?」

 お母さまが持っていたのだから、それはわかるけどなぜ。
 神器なんて、そう数があるわけじゃない。
 庶民には伝説みたいなもので、目にする機会もどんなものなのかも知らない。
 剣や鏡があるとは聞いたけど、その一つがクリアリでいま目の前にあるなんて。

  
『それに、絶対あれも動くと思うけど』
「あれ?」

 クリアリが何を言いだしたのかわからなくて、首を傾げた瞬間だった。

 コツコツ。
 窓に何かが当たる音。
 ユーが「キュアッ」っと大きく鳴いた。