女神は天秤を傾ける

「ねぇ、聞いた?」

 学園は、昨日の緊急招集の話でもちきりだった。
 噂好きの者たちは、独自に仕入れた情報を交換している。
 親は覇権に右往左往なのだから、子供だってそうだ。
 自分の人生が、突然変わる事態なのだから。

「第一王子ダーリアさまが、捕らえられた話」

 キリカもその一人だった。

「らしいわね」

 私のそっけない相槌も気にしないで、知っていることを教えてくれる。

「国の太陽を消そうとしたって、それって……」
「暗殺ね」

「シーーーっ。リーディアっ」

 キリカが声を潜めるように促すけど、こんなにざわついていたら誰も聞いていないと思う。

 回りくどい言い回しは、この国特有だ。

 私も同じ罪状だから、その意味はよく知っている。

 ただ、処刑の私と違って仮にも王子という身分なので斬首ということはない。

「ダーリアさま、この国から離れるんですって」

「え!?」

 キリカの話しを、思わず聞き返した。

「幽閉じゃないの? その……牢離宮とか……」

 私の記憶の場所なので、さすがに声を潜める。

「いまはそこにいるけど、この国から出した方がいいって決まったみたいよ」
「……違う……」
「なにが違うの?」

 動揺して漏れた言葉を、慌てて否定する。

「わ、私が聞いた話と違うなーって……」

「でも、これは確かな話しよ。だって、お父さまから聞いたことだもの」

 友達の友達から聞いた話ではないというと、少し信憑性が出てくる。

「モアディさんたち魔法師や騎士が同行して、移送するんだって。急ぎで探し物があるからって、昨日店に訪れたらしいの」

 キリカは、自分は会えなかったと残念がった。

 騎士や魔法師が同行するのはわかる。
 逃亡を防ぐためだろうから。
 そこで結界を貼って、幽閉する。

「国外ってどこに……」

 いやだ、いや。
 嫌な予感しかしない。

「んー……たぶん、だけどスハジャ公国じゃないかな。湖のそばだって言ってたから」

「スハジャですって!?」

 出てきた国の名前に、嫌な歯車が嚙み合いだす。

 湖傍のスハジャ公国は小さな国だが、観光で潤っている。
 そう、湖とあのドレナ山を有しているから。

「騎士は……騎士はどの部隊が行くのかしら」
「第二王子じゃない?」

 当たり前じゃない、とキリカは言う。
 失脚した第一王子の騎士が行くわけがない。

「あ、第二って……」

 キリカが思い当たったことを口にする。


「ユハスさまが所属しているわよね」