『ふぃらひふぁ、ふほぉしずつふぁあってるふぁね』
未来が少しずつ変わってるわね、と言った?
口いっぱいに焼き菓子を頬張っているから、クリアリの発言をいったん頭で繰り返して考える必要がある。
片手にはあの不思議な力で満たしたお茶、椅子のように夜鳴鳥に寄りかかり、お菓子を頬ばる。
女神の行儀とは思えないわね。
天秤に審判を委ねない日も報告として組み立てるけど、こんな自称女神を見ていると相談役として不安になる。ときがある。
でも、話し相手がいるって、こんなに心強いものなのね。
この離れに追いやられて引きこもり、そしてあの薄暗く冷たい部屋に独り何年も幽閉されていた時は、絶望しかなかったけど。
『今日の焼き菓子も、とても美味しいわ』
飲み込み、やっとまともに話す自称女神。
にっこりと頬に添えられた手が、ちょっとばかしごつごつしている。
「貴族に売る毛皮が、とても順調でね。次々注文が入るの」
それは予想以上だった。
お茶会に参加の注文を捌き終わったと思ったら、それを人づてに聞いた他の貴族からも注文が入るようになった。
追加でミト商会に連絡を取ると、ミトさんはニコニコですぐ納入してくれる。
私たちはいい関係になっていた。
「仕立て屋さんに、嬉しい悲鳴で寝不足だって今日言われちゃったわ」
『稼げるときに、無理してでも稼ぐのはいいことだわ』
悲鳴を上げているのは仕立て屋さんだけじゃない。
他の人と被らない、が売りのためぜんぶ色合わせや素材を変えて製作する。
考えるのは楽しいけど大変さと、それとは別問題で。
「あまり人気が出てしまうと、お父さまやあの親子にバレてしまうからキリカを代表にしたの」
『それで、ユハスは妹に恋したの?』
出会ったことを言っただけなのに、クリアリは突っ込んでくる。
「わからないわ。あの親子は確かに目を引くの。濃い肌は異国情緒たっぷりで、新鮮だから……惹かれるのはわかるけど、でもお父さまの言葉を聞こえていないように無視して」
『ふぅん』
クリアリは聞いておいて、興味なさげな相槌。
「未来が変わっているなら、ユハスさまがクミン側につかない……」
『どうかしらね』
言葉を遮られた。
『それより、これの飼い主や第一王子のことを聞きたいわ』
とんとん、とユーを叩くと、ユーはぎくりとしたようにギュイと鳴いた。
『リーで試したり、派手に結界を張ってこれを寄こしているなんて、監視してることを隠していないわ。やっかいなのに目を付けられたわね』
「うん……」
モアディさんは怖い。
自分の考えを答え合わせしたくて、私に近づいている気がする。
「ねぇ、まさかユーを通してこの状況まで視えてる?」
結界を張ったあの日、扉の外にいて部屋の中は見えなかったモアディさんなのに、見えているかのようにふるまわれた。
そうなると、着替えなんかも見えてしまっている可能性がある。
クリアリは立ちあがっると、ユーの正面に立った。
『そうなの? 私が視えている?』
「ちょっと待ってっ」
本人に聞いて、答えてくれるわけないよ。
ギィギィ。
ほら、ユーだって首を振ってるじゃない。
夜鳴鳥はとても利口だから、ある程度の意思の疎通ができると錯覚してしまう。
このふわふわの羽の中に、小さいモアディさんが入ってるんじゃないかと。
そうだったら嫌だけど。
「ユー、まさか、着替えも?」
ギュイギュイッ。
たらりとユーの額に冷や汗が流れるのが見えた、気がした。
『大丈夫よ。視られているのなら、私は出てこないわ』
クリアリはあっさり否定した。
「わかるの?」
『魔法はね、絶対形跡が残るものなの。そんな高位の魔法師に視られていたら絶対気づく』
そういうものなのか。
魔力がぜんぜんない私は、なにも感じない。
『この結界だって、私には不快よ』
クリアリは面白くないという顔で、ユーを睨んだ。
「ユーに怒っても仕方ないでしょう? 一応、私を護るためだしちょっと我慢してよ」
あの時は嫌な感じだったけれど、私はいまはなにも気にならない。
『とにかく、その魔法師とは二人きりにならないことね』
「そうだね」
私もそう思う。
次は誤魔化せるか自信ない。
『私、そろそろ帰らないとだけど…王子についてはもっと情報ないの?』
外に具現していられる時間が決まっているのかしら。
クリアリに急かされたけど、学園の先生の招集についていくわけにもいかず詳細はわからない。
ただ、学園の先生は城の教授もしているから、緊急招集というと城がらみの予想はつく。
いま城がらみで緊急となると、王子失脚しか思いつかない。
シンとした夜に響いてきた、「僕じゃない、僕じゃない」という悲痛な叫びは、耳にこびりついてしまった。
あの王子も、誰かにはめられたのだろう。
第一王子は温厚な人柄だと聞いたけど、王子は何人もいてその中の一人しか王になれないのだから水面下の覇権争いに負けると消されるということだ。
消される=死。
幽閉期間があるだけ、まだマシ。
毒殺、暗殺、方法はいろいろある。
兄妹仲良く手を取り合って国を作ろう、なんて聞いたことはない。
派閥を間違えると、貴族も巻き込まれて没落なんてこともあるから城の情勢には網を張っている。
うちは、第二王子についていたからこの騒動ではにんまりしたうちの一人だ。
『なにかわかったらでいいわ』
「うん、おやすみなさい」
クリアリは王子失脚時期が変わったことは、特に重視していないみたいだった。
ひらひらと手を振り、眠そうに消えてゆく。
力を使っても使わなくても、帰るときはいつも眠たそうだ。
ひょっとして出てくるだけでも疲れることなのかしら。
私も、この時は時期がずれただけで、我が家には影響がないから大したことではないと思っていた。
未来が少しずつ変わってるわね、と言った?
口いっぱいに焼き菓子を頬張っているから、クリアリの発言をいったん頭で繰り返して考える必要がある。
片手にはあの不思議な力で満たしたお茶、椅子のように夜鳴鳥に寄りかかり、お菓子を頬ばる。
女神の行儀とは思えないわね。
天秤に審判を委ねない日も報告として組み立てるけど、こんな自称女神を見ていると相談役として不安になる。ときがある。
でも、話し相手がいるって、こんなに心強いものなのね。
この離れに追いやられて引きこもり、そしてあの薄暗く冷たい部屋に独り何年も幽閉されていた時は、絶望しかなかったけど。
『今日の焼き菓子も、とても美味しいわ』
飲み込み、やっとまともに話す自称女神。
にっこりと頬に添えられた手が、ちょっとばかしごつごつしている。
「貴族に売る毛皮が、とても順調でね。次々注文が入るの」
それは予想以上だった。
お茶会に参加の注文を捌き終わったと思ったら、それを人づてに聞いた他の貴族からも注文が入るようになった。
追加でミト商会に連絡を取ると、ミトさんはニコニコですぐ納入してくれる。
私たちはいい関係になっていた。
「仕立て屋さんに、嬉しい悲鳴で寝不足だって今日言われちゃったわ」
『稼げるときに、無理してでも稼ぐのはいいことだわ』
悲鳴を上げているのは仕立て屋さんだけじゃない。
他の人と被らない、が売りのためぜんぶ色合わせや素材を変えて製作する。
考えるのは楽しいけど大変さと、それとは別問題で。
「あまり人気が出てしまうと、お父さまやあの親子にバレてしまうからキリカを代表にしたの」
『それで、ユハスは妹に恋したの?』
出会ったことを言っただけなのに、クリアリは突っ込んでくる。
「わからないわ。あの親子は確かに目を引くの。濃い肌は異国情緒たっぷりで、新鮮だから……惹かれるのはわかるけど、でもお父さまの言葉を聞こえていないように無視して」
『ふぅん』
クリアリは聞いておいて、興味なさげな相槌。
「未来が変わっているなら、ユハスさまがクミン側につかない……」
『どうかしらね』
言葉を遮られた。
『それより、これの飼い主や第一王子のことを聞きたいわ』
とんとん、とユーを叩くと、ユーはぎくりとしたようにギュイと鳴いた。
『リーで試したり、派手に結界を張ってこれを寄こしているなんて、監視してることを隠していないわ。やっかいなのに目を付けられたわね』
「うん……」
モアディさんは怖い。
自分の考えを答え合わせしたくて、私に近づいている気がする。
「ねぇ、まさかユーを通してこの状況まで視えてる?」
結界を張ったあの日、扉の外にいて部屋の中は見えなかったモアディさんなのに、見えているかのようにふるまわれた。
そうなると、着替えなんかも見えてしまっている可能性がある。
クリアリは立ちあがっると、ユーの正面に立った。
『そうなの? 私が視えている?』
「ちょっと待ってっ」
本人に聞いて、答えてくれるわけないよ。
ギィギィ。
ほら、ユーだって首を振ってるじゃない。
夜鳴鳥はとても利口だから、ある程度の意思の疎通ができると錯覚してしまう。
このふわふわの羽の中に、小さいモアディさんが入ってるんじゃないかと。
そうだったら嫌だけど。
「ユー、まさか、着替えも?」
ギュイギュイッ。
たらりとユーの額に冷や汗が流れるのが見えた、気がした。
『大丈夫よ。視られているのなら、私は出てこないわ』
クリアリはあっさり否定した。
「わかるの?」
『魔法はね、絶対形跡が残るものなの。そんな高位の魔法師に視られていたら絶対気づく』
そういうものなのか。
魔力がぜんぜんない私は、なにも感じない。
『この結界だって、私には不快よ』
クリアリは面白くないという顔で、ユーを睨んだ。
「ユーに怒っても仕方ないでしょう? 一応、私を護るためだしちょっと我慢してよ」
あの時は嫌な感じだったけれど、私はいまはなにも気にならない。
『とにかく、その魔法師とは二人きりにならないことね』
「そうだね」
私もそう思う。
次は誤魔化せるか自信ない。
『私、そろそろ帰らないとだけど…王子についてはもっと情報ないの?』
外に具現していられる時間が決まっているのかしら。
クリアリに急かされたけど、学園の先生の招集についていくわけにもいかず詳細はわからない。
ただ、学園の先生は城の教授もしているから、緊急招集というと城がらみの予想はつく。
いま城がらみで緊急となると、王子失脚しか思いつかない。
シンとした夜に響いてきた、「僕じゃない、僕じゃない」という悲痛な叫びは、耳にこびりついてしまった。
あの王子も、誰かにはめられたのだろう。
第一王子は温厚な人柄だと聞いたけど、王子は何人もいてその中の一人しか王になれないのだから水面下の覇権争いに負けると消されるということだ。
消される=死。
幽閉期間があるだけ、まだマシ。
毒殺、暗殺、方法はいろいろある。
兄妹仲良く手を取り合って国を作ろう、なんて聞いたことはない。
派閥を間違えると、貴族も巻き込まれて没落なんてこともあるから城の情勢には網を張っている。
うちは、第二王子についていたからこの騒動ではにんまりしたうちの一人だ。
『なにかわかったらでいいわ』
「うん、おやすみなさい」
クリアリは王子失脚時期が変わったことは、特に重視していないみたいだった。
ひらひらと手を振り、眠そうに消えてゆく。
力を使っても使わなくても、帰るときはいつも眠たそうだ。
ひょっとして出てくるだけでも疲れることなのかしら。
私も、この時は時期がずれただけで、我が家には影響がないから大したことではないと思っていた。
