第2章: 最初の一歩

席替えが終わり、私の隣には高橋蓮くんが座った。彼は相変わらず、無表情で静かな様子だったけれど、その空気がなんだか私の胸をドキドキさせる。周りのクラスメートたちも、少しざわついているけれど、私は彼にどう声をかけたらいいのか全く分からなかった。

「よろしくね、高橋くん。」

思い切って声をかけると、彼は軽く頷いて、「よろしく。」と短く返してくれた。それだけで、心の中に温かいものが広がる。普通なら、これで終わりかと思ったけれど、蓮くんはその後、ちょっとだけ私を見てから、机に向き直った。

ああ、やっぱり無口で、そんなに話しかけてこないタイプの人なんだなと、少し安心したような、でも寂しいような気持ちになった。

その日の授業は、私たちが隣同士(となりどうし)というだけで特別な気分になったけれど、蓮くんがあまりにも無口すぎて、結局お互いにほとんど会話をしなかった。昼休みになり、友達に声をかけられて教室を出たけれど、心の中にはどこかで彼との会話を楽しみにしている自分がいた。

それから数日が経った。毎日、蓮くんと隣の席になっては、ちょっとした気まずさが続いていた。お昼の時間も、私は友達と一緒に過ごし、蓮くんは一人で食べていることが多かった。彼のことをもっと知りたいけれど、どうやって近づけばいいのか分からない。

そんなある日、放課後、教室に残っていた私は、ふと蓮くんの机を見ると、ノートに何か書いているのが見えた。その内容が気になって、私は思わず声をかけてしまった。

「蓮くん、何か書いてるの?」

蓮くんは、少し驚いた顔をして私を見た。目を合わせると、彼は一瞬だけ目を伏せてから答えた。

「ただのメモだよ。」

その返事は、あまりにも短くてあっさりしていたけれど、私の中で何かが引っかかった。蓮くんがあまり自分のことを話さないのは、きっと何か理由があるんだろう。そんな風に思うと、ますます彼に興味が湧いてきた。

「メモ…って、どんなこと書いてるの?」

ちょっとだけ挑戦するように、私はもう一度声をかけてみた。でも、蓮くんは今度は少し困ったような顔をして、メモをすぐにしまった。

「……それは、ちょっと。」と言って、少し顔を赤らめたようにも見えた。今まで見たことのない蓮くんの表情に、私は驚いて言葉を失った。

その瞬間、私たちの間に、何か少しだけ違う空気が流れた気がした。蓮くんがあんなふうに恥ずかしがるところを見たのは初めてで、なんだか不思議な気持ちになった。

|第3章: 少しずつ近づく距離

その日から、私たちの関係は少しずつ変わり始めた。毎日、授業の合間に小さな会話を交わすようになり、私は彼が意外にも笑顔を見せることがあることに気づくようになった。

ある日、体育の授業の後、私は汗だくになりながら着替えをしていると、ふと蓮くんが教室に入ってきた。彼も、他の男子と一緒に着替えた後だった。

「お疲れ様。」と私は声をかけると、蓮くんはいつものように無表情で頷いた。

「お疲れ。」と一言だけ。

でも、その言葉を聞いて、なんだかちょっと嬉しい気持ちになった。彼が少しずつ私に心を開いてくれているのかもしれない、そんな予感がした。

その夜、私はいつもよりも早く寝室に入って、ベッドの中で今日の出来事を思い返していた。蓮くんのちょっとした笑顔、そして、あの恥ずかしそうな表情を思い浮かべると、胸がドキドキして止まらなかった。

私の中で、彼への気持ちが確かに大きくなっていくのを感じていた。