「ひゃっほーぅい!」

ペガがメリーゴーランドの真似をして回り始めた。

メリーゴーランドの近くを飛ぶには翼が邪魔なのだろうか、なるべく小さく広げ、平行を保っている。

なかなか器用だ。



「乗るか?」

ユニにきかれて椿が

「いいよ」

と、首を横に振る。

「ここでこうして見てるほうが楽しいんだ。今は。」

するとユニは何も言わず、椿の隣にたたずんだ。

(ふたりのこういうところが好きだなあ)

おもわず何でも話してしまえる、ユニのこういう姿勢も、ああやってはしゃいでいるペガの様子も両方とも。

(両方好きだ。)

くらべることなんてできない。



「私は、メリーゴーランドに最初から乗ってて、しがみついてるだけで精一杯だったけど」

言いながらわかることがある。このときもそうだった。

「うん?」

「目まぐるしく変わる景色に、一体何が起こっているのかわからなくって怖かった。」

「そうか。」

「外から見てはじめて、かわいいもんだってわかった。」

「そうか。」

「それに、すこし楽しいものかもしれないって、はじめて思った。」

「ふうん?」

今は外から眺めているだけでいい。でも、いつかはあそこへ戻るのだ。

そのとき、今と同じことを思えるだろうか?

夜の闇のように深入りすると抜けられなくなりそうで、椿は考えるのをやめた。

「……そろそろ目をまわしはじめたな。」

椿はぷっと吹き出した。ベガはふらふらになっていて、それでも意地からだろうか、回り続けている。

「助けに行くか。」

「そうだねえ。」

「じゃ、ちょっと乗れ。」

「うん」

翼ではなく、蹄で空を駈ける者は、少女を乗せて飛び立った。

メリーゴーランドの、まばゆい光を旋回し、そして翼を持つ者を迎えに行くために。