「裏山の奥に、野生のうさぎの赤ちゃんがいるんだよ」

まだ小学校低学年だった僕等は、本宅で夕ご飯を食べた後に家をこっそりと抜け出した。

コートを羽織って、帽子に手袋、マフラーを巻いたところで。12月の山の寒さは凄かったと思うけど。それ以上に、親に内緒で出掛ける事はちょっとした冒険気分になってワクワクした。


「りゅうちゃんこっちこっちー」

「さむいよー」

「すぐつくから!」

そう言って月明かりをたよりに真っ暗な裏山を登って森の中へと入っていった。

枯葉は全て地面落ちて、大きくて高い木は枝だけの状態で僕等を見下ろして。その隙間からは容赦無く冷たい風が吹いてくる。


「いちかちゃん、待ってよー」

「あ、あれ……?」

「どうしたの?」

「ここだったんだけど。おかしいなー」

なんて いちかが続けるから、俺は不安になってきて。確かその時、後ろを振りかえれば本宅の明かりが見えて少しホッとしたのを覚えている。