テーブルの向かい側に座る兄ちゃんは俺と6歳離れていて、大学を出て就職とともに家を出た。
出たと言っても隣町だから、何かあるとこうやってすぐに帰ってきてしまうんだけど。


「琉もさー、水族館とか動物園好きだもんな」

「いつの話をしてんだよ」

「ほら、昔さー。オラウータンの檻の前でー」

いい感じに酔っ払ってきた兄ちゃんが、ビールジョッキを片手に昔話をはじめるから変な事を言われないかギョッとした。


「えー、何?何?」

「いちかには関係ねぇだろ?」

「2人でさ、うほうほマネしてしてたらツバ吐かれたんだよなー。あのオラウータンまじで無いわ!」

なんて面白くない事を"ひゃひゃわひゃ"と大笑いで話すから、母ちゃんも一緒になって「そうそう!琉、泣いちゃったのよねー」なんて必要のないエピソードまで添えられて。


「琉、可愛いーじゃん」

結局 いちかも一緒になって笑われる羽目になる。