うう…。みんな、雑用を全部私に押し付けるなんて…。しかも少し遠いところにもっていかないといけないからな…。
 実はさっき…

『先生ー。俺ら、今日用事があってそのプリント、運べないっす。代わりに白鳥さんにさせてもらうことにしたので。じゃあ俺たちはこれで!』
 急に男子たちからの指名にびくっと肩が反応する。
『ああ…、そうか…。なら白鳥!このプリント、よろしくな!』
 先生にもそう言われてしまって逃げ場がなくなる。
『ええ…、あ、は、はい…。』
 そう思わず言ってしまった。

 という感じで無理やり押し付けられて仕方なく運んでいる。
 もう、今日は勉強会があるから早く家に帰りたかったのにな。
 でも断らなかった私が悪いか…。
 …そう考えただけで気が重くなる。

―――どんどんっ

 ん?何か音が鳴っている。何の音だろう…?
 しばらく聞いていると、その音の正体は体育館からなるものだった。
 も、もしかして、けんか⁉この学校ではケンカが起こっても何もおかしくはないっ‼
 私はおそるおそる扉から覗いてみた。
 すると、類さんが一人で体育館にいた。類さんはドリブルをしてそのままシュートを決めた。
 わあっ。類さんがボールを操ってるみたいにキレイに決まった。
「す、すごいっ。」
 私は思わず、声を出してしまっていた。
 隠れようと思ったけど、遅かった。
 類さんは私に気付いてこっちに歩いてきた。ぬ、盗み見しちゃったことに対して怒っているのかなっ…。
「なにしてんの?」
 目の前にはいつもの機嫌が悪いオーラ全開な類さんがいた。
「あ、あのっ。勝手に見てご、ごめんなさいっ。」
 私は頭を下げた。類さんに嫌われているのだから当然だよね。
「…別に気まぐれだから。」
 え…?ゆる…許してくれた?よ、よかったー。
 緊張で上がってしまった肩が元に戻った。
 ほっとしていると類さんは何もなかったかのようにバスケを続ける。ずっとドリブルとシュートの繰り返し。
 何度見ても無駄がない動きでキレイだな…。
 ずっと見ていると、シュートを決めた後の着地で足をひねっていた。
 えっ…。
 一瞬類さんは止まったけど、何もなかったかのように続けていた。
 類さんは何ともないと思っているかもしれないけど、さっきひねった時に痛そうに顔をゆがめていた。きっと見間違いじゃない。
 私は気づいたら類さんのところへ走っていた。
「類さんっ。さっき足ひねってましたよね。見せてください。」
 そういって類さんの足元でしゃがみ足を見てみると、すこし右足首が腫れていた。
 骨折はしてないよね…。
「少し失礼します。痛かったら言ってください。」
 それだけ言って類さんの足を触る。腫れているところは避ける。さわっても痛いといわない類さん。ほかにケガはしてないようだ。
 私も喧嘩でよくこういうけがをするから対処法は知っている。
 もう放課後で保健室も締まっているから私がシップ貼らないとな。そして私は小さいシップを取り出した。いつどこでケガをするかわからないから持っておくようにしているんだ。
「…余計なことはするな。」
「余計じゃないですよ。悪化したら大変です。」
 この学校はケンカが強い。だからいつ襲われてもちゃんと力を発揮できるように治療しておかなきゃ。
 私はゆっくりと湿布をはった。
「できました。湿布を変えたりしてくださいね。それにしばらくは安静にしててください。」
 類さんは目を見開いている。
「あっ、余計なことをしてごめんなさいっ。」
 私、周りが見えなくなって…。類さんに余計なことをしてしまったかもしれない。
「別に。」
 えっ。類さんから意外な言葉が出てきた。
 そんなことを言ってもらえるなんて…。
 そして類さんは頭をかいて恥ずかしそうにこういった。
「俺のこと嫌いじゃないのかよ。」
 嫌い…。嫌いじゃない。
 たとえ類さんに嫌われていても嫌われていなかったとしても、嫌いになんかならない。
「嫌いになんてなりません。」
 私はニコッと笑った。
 時間を見ると、そろそろ行かないといけない時間だった。
「じゃあ、お大事にしてください。」
 それだけ言って体育館を後にした。



―――――ピンポーン
 ドアが開いた。
「結ちゃん、どうぞ入って。」
 陸さんが優しい笑みを浮かべて中に入れてくれた。
 そう、今日は二回目の勉強会っ。今日は類さんも参加してくれると嬉しいな。
「お、おじゃまします。」
 もう二回目なのに全然なれないな…。
 リビングに入ってソファに座らせてもらう。
 仁さんと類さんはまだ来ていないみたいだ。
 陸さんはすぐさまブラックコーヒーとココアを手にもってきた。陸さんはさりげなく優しい人だなっ。
 陸さんはブラックコーヒーを飲んでいる。陸さんは同級生と思えないくらい落ち着いていて大人っぽいな。私はブラックコーヒーは苦くて飲めない。そういえば仁さんと類さんも同級生と思えないくらい大人っぽい。私も三人を見習わないとなっ。
「お菓子を持ってくるね。」
 陸さんは気を使ってくれたのか席を立った。
「いやいや、お構いなく…。」
 そう声をかけたけど「遠慮しないで」といってキッチンのほうへと行ってしまった。
 ココアを一口飲むと温かいココアがしみておいしいな。

―――――ピコンッ

 どこかから通知音が鳴った。
 私のスマホかな…?
 そう思ってみてみたけど通知はなかった。
 机の上を見ると黒いスマホから通知が来ていたみたいだった。
 このスマホは…陸さんのか。シンプルでかっこいいスマホだな。

『最近〝ザクロ〟のメンバーが何者かにやられているみたいだ。何も証拠を残さず消えるから正体がつかめないんだ。狙いは陸かもしれない。気をつけろ。』

 えっ…。ザクロって……。ざ、ザクロって裏で動いてる秘密の組織のことだよね。正体は不明という。私たちで探っても何も情報がつかめなかったのにっ。なんで…。まるで陸さんが、ザクロのメンバーみたいな…。
 すると陸さんはちょうど帰ってきたみたいだった。
 私はとっさに元に戻った。
 陸さん?本当に…?
 向かいに座った陸さんをじっと見る。
 私があまりにも見すぎたせいか陸さんが笑った。
「ははっ、結ちゃん。どうしたの?」
 私は少しパニック状態だった。
「ざ、ザクロって…。陸さんっ…。」
 私は思わず声に出して陸さんに聞いていた。
 陸さんは目を見開いてびっくりしていた。
「結ちゃん。通知、見たの?」
 陸さんがゆっくり聞いてきた。
「ご、ごめんなさいっ。見るつもりはなかったんですけど、目に入ってしまって…。」
 私が慌てて謝ると、陸さんは困ったような表情を浮かべていた。そりゃそうだよ。勝手に見たんだから。
「誰にも言わないって約束してくれる?」
 私は陸さんの言葉にコクコクとうなづく。
「結ちゃんなら…いいかな。」
「その、ザクロというのは…。」
 私が聞くと陸さんは話してくれた。
「ザクロは俺のグループ。俺はザクロの総長をしているんだ。ザクロというのは簡単に言えば情報収集係だね。裏社会で起こっていることとか本当の真相などを調べているんだ。もちろん、隠れて行なっていることだよ。」
「本当の真相とは…?」
「ああ、警察でも見破れなかった事件の真実などをザクロが暇つぶし程度に解決しちゃうんだ。でも、最近は物騒なことがたくさん起きているからね…。」
「物騒なこと?」
「うん、結ちゃんが見た通知のことだよ。ザクロのメンバーがやられていってる。その中には骨折や大きなケガばっかりでね。みんな誰に何をされたか覚えてないんだよ。」
 私は怖くて腕をぎゅっと握りしめた。
 総長である私でも怖いっ…。だけど、私のメンバーもやられて行っていると知らせが入ったからザクロだけじゃなく、オーブのその対象。
 そんな物騒なことが起こっているのに、陸さんは大丈夫なのかな…?
「で、でもっ。総長ならなおさら気を付けないといけないんじゃっ…。」
「あははっ。結ちゃんは優しいね。大丈夫だよ、気にしないで。」
 陸さんが笑った。いつもの陸さんだから大丈夫だと思うんだけど…。ほ、本当に大丈夫なのかなっ…。
「陸さんっ。本当に無理だったら頼ってください。私じゃ無理かもしれないけど、仁さんと類さんもいますからねっ。」
 私は必死に陸さんに言った。一人で抱え込んじゃうような陸さんは誰かに頼るなんてことを忘れちゃいそうで怖い。
 いざとなったら絶対に助けるっ。

―――ガチャっ

 あっ、誰か来たかなっ…?
 私と陸さんは玄関まで見に行くと、そこには仁さんと類さんがいた。
 あれ?二人で帰ってくるなんてめずらしいな。どうしたんだろう。
「おかえりなさい。」
「「…ただいま」」
 二人が声を合わせて言った。
 ふふっ、本当は二人とも仲が悪そうに見えるけど仲良しなの!
 みんなでリビングに行って勉強の準備をする。
 陸さんは仁さんと類さんにザクロのこと、言わないのかな?そう思って陸さんのほうを見ていたら陸さんがこっちに気付いて人差し指を立てて口元にあてた。
 陸さんは〝内緒だよ〟と目だけで会話した気がする。
 すると類さんも教科書とペンを持ってきた。
 そのことに仁さんと陸さんも気づいたのか
「類、お前も参加するの?」
 陸さんの言葉にコクっとうなづく類さん。
 私は途端に笑顔になる。うれしいっ。今日はいつもより類さんも楽しめるように頑張らないとなっ。
「でも別に、教えてもらう気はない。たまたま勉強する時間がかぶっただけだ。」
 あれ?さっき仁さんが参加するのかって聞いたらうなづいていたのにな…。
 私は気にしないことにした。
 そして私たちは、必死に勉強をした。



 ふぁー。ね、眠くなってきちゃった…。
 ずーっと勉強をしていたせいか眠くなってしまった。
 あ…、もうだめかも…。
 私はブラックアウトしてしまった。

「………り。……とり…。」
 うう…、何か聞こえるような…?
 ぼーっとしていて何も考えられない。
 その時、ふわっと体が浮いた感覚がした。
 そして私の意識はまたここで途絶えた。

 う、うう…。ふぁー。
 うっすらと目を開けると見知らぬ天井があった。
 ここはどこ…?
 私は目が覚めた。
 私は見知らぬベットの上にいた。なんとなく仁さんのにおいがするような…?
 ええっと、みんなで勉強会してたよね、ちゃんと勉強したことは覚えているんだけど…その後があいまいだな。
 まさか、勉強会で勉強をしているときに寝てしまったとかっ…⁉
「白鳥、起きたか。」
 声がした方を見ると眠そうに横でベットに頬杖をついている仁さんがいた。
 な、なんで仁さんが私が寝てたベットのとなりでねおきみたいなっ。まさか、一緒に寝てたってことは…。
「隣で寝てた。」
 そういってにやける仁さん。途端に顔が真っ赤になる私。
「そんなにかわいい顔をされると止まらなくなる。」
 そういって不敵にほほ笑んだ。
 な、何するのっ⁉
 仁さんは顔がだんだんと近づいてくる。私は途端に目をぎゅっとつぶった。
 すると額にこつんと何かがあったた。
 ゆっくり目を開けると、そこにはドアップの仁さんの顔があった。仁さんに至近距離で見つめられる。
 私はびっくりしてベットの奥へと逃げ込む。だけどそんなのすぐに逃げ場がなくなって仁さんにつかまってしまう。
「俺が男ってこと、忘れてたでしょ。」
 後ろから声が聞こえてきて後ろをふりむくと仁さんが正面から抱き着いてきた。
「ふぇっ……」
 仁さんの心臓の音が聞こえる。すごく、早くに脈打ってる。
 そんなことされたら、もう仁さんのことしか考えられなくなるっ。
 何とかふりはらおうとしても力が強くてびくともしない。
「じ、仁さんっ…」
 私が必死に声を出して言うと、やっと解放された。
 仁さんは少し乱れた髪でこっちを見ていた。
「ねえ、白鳥。」
「は、はいっ。」
 急に名前を呼ばれて思わず声が裏返る。
「ははっ、嘘だよ。こっちにおいで。」
 私の手を引いて部屋を出ていく。
 そこには陸さんと同じような部屋があった。
「ここって…」
「俺の部屋。」
 私が聞くと、すぐに答えてくれた。
「私は何でここにきているんですか?」
 そう聞くと、近くにあったソファに二人で座りながら教えてくれた。