私は結局寮の外に出て縮こまって座っていた。
「…くしゅんっ。」
少し厚めの服を着ているのに今年の春も寒いな。
風邪ひいちゃうかもしれないけど、今はどうでもよかった。
…幻滅、させちゃったかな…。
「そんなところで風邪ひくぞ。」
声がした方からは仁さんの姿が。
そして上着を私にかけてくれた。途端に優しい香りがふわっとした。
「あ、ありがとうございます。」
心臓が早くに脈打っている。まるで仁さんにだ、抱きしめられているみたいだった。
そういえば私に上着を貸して仁さんは寒くないのかな?
「さ、寒くないんですか?」
よく見ると黒の薄そうな服だった。
「仁さんが着てください。私はいいですから。」
そういって私は上着を脱ごうと手をかける。
「いい、俺は気にするな。」
そして私の頭に手をのせてぽんぽんと優しく撫でた。
「へっ…⁉」
思わず間抜けな声が出てしまった。
「ふはっ、耳まで真っ赤。」
なっ⁉か、からかってるの⁉
私はぱたぱたと顔の熱を冷まそうとあおいだ。
静まって、私の心臓…。
「白鳥。俺達には白鳥が必要だ。類は気まぐれだからな。気にするな。」
急に真剣な顔をして、私にそう言ってくれた。
私を必要としてくれている…。
「あの…。」
「ん?」
「なぜみなさんは、首席からの勉強が必要なんですか?」
寮の最上階にいるのは勉強や喧嘩が優秀なだけだから、もちろん勉強もできるだろうし…。
私の力がなくても大丈夫だと思うんだけど…。
「…トップになりたいんだ。」
「何のトップですか…?」
「この学校のトップだ。トップは絶大な権力を得る。そのトップになるためには、今のトップに勝たなきゃいけない。」
そんな大変な目標を持っているなんて、仁さんに尊敬するな。
「そのためにはもっと、努力が必要だ。だから首席の力を借りてトップになりたい。」
…仁さんの思いは伝わった。きっと仁さんが強いのは努力の証だろうから。
だけど私なんかにその役目が務まるのかが不安。今回はたまたま首席になっただけなのに。
私にできることを…。
「話してくれて、ありがとうございました。戻りましょう。」
おかげで気持ちの整理ができた。
「取り乱してごめんなさい。」
私は頭を下げて陸さんと類さんに謝った。
「頭を上げて、結ちゃん。」
陸さんにあわてた声で言われて頭を上げる。
類さんは相変わらず黙ったまま。
仁さんはスマホをいじってこっちに興味を示していないようだった。
「ごめんね、急に。首席のこと、忘れていい…」
私にできることはしたい。仁さんの言葉を聞いてそう思えた。
「やります。みなさんの期待通りにできるかはわからないけど、私にできることは全部させてください‼」
私は陸さんの言葉をかぶせて言った。
勢いのまま言ってしまったから陸さんと類さんは口と目を見開いている。
頑張るって決めたんだ。私を必要としてくれた皆さんのために頑張らなきゃ。
「本当に、いいの…?」
「…はい。」
「…ありがとう、結ちゃん。」
私は陸さんに微笑むと、陸さんも微笑んでくれた。
お兄さんが出来たみたいだな。
「じゃあ始めるぞ。」
仁さんが立ち上がってそういった。
「何をですか?」
「勉強、教えてくれるんだろ?」
「い、今からですかっ⁉」
準備とかもあるし、今からはちょっと……。
「ほら、早く。」
そういって机に頬杖をついて仁さんの隣をポンポンと叩いている。
隣に座れってこと、…なのかな?
私は指示された通り、隣に座った。
「じゃあ、お願いしようかな。」
そういって陸さんもこっちに来た。そして私の向かいに座った。類さんは少し離れたところでイヤホンを耳にさしてスマホを見ている。
類さんは参加しないのかな?
「…る、類さん。よかったら一緒に勉強しませんか?」
類さんは私をちらっとだけ見た。
あ、相変わらずだな…。
「ごめんね、結ちゃん。勉強会、三人で始めようか。」
陸さんがまた謝ってくれて、私は思わず苦笑いをした。
「じゃ、じゃあ、この前の定期テストの結果を教えてくれますか?」
勉強を教えるくらいだからそんなに悪い点なのかな…?
「…二位。」
「三位だよ。ちなみに九十二点で、仁が九十四点だよ。」
に、二位と三位っ…。私が教えなくてもいい気が…。
「そっか、じゃあ何点目標にしますか?」
「…満点。」
「ぼくも仁と同じかな。」
ま、満点は、私も取ったことがないし、取った人を見たことがないくらい難しいけど…。
私も二人に教えるんだったら教えれるくらい頑張らなきゃなっ…。
「…各自で勉強してみましょう。わからないことがあったら聞いてください。」
こ、こんな感じでいいのかなっ…。
人に教えたことなかったからこれでいいのかわからないけど、あってるのかな…。
そう指示すると、二人は真剣な顔をして問題を解き始めた。
私も勉強しなきゃっ。
私は二人に続いて問題集を解き始めた。
「…白鳥。ここ教えて。」
仁さんに呼ばれたので振り向くと、文章問題の所を示していた。
「ここは、こうしてこれをここに持ってくるとわかりやすくなりますよ。」
不安になって仁さんをちらっと横目で見ると、私の説明を聞いてシャーペンを素早く動かしていた。
「さんきゅ。」
ふふっ、こんな風に感謝されるとうれしくなるな。
私たちは協力して問題集を解き続けた。
つ、疲れた…。
集中力は切れる方ではないけど、さすがに疲れたな…。
時間を見るともう六時だった。寮生活だから門限とかはないけど、さすがに帰った方がいいよね。
「結ちゃん。もう疲れた?」
陸さんが笑いながら私に聞いてきた。
「はい。そろそろ帰らないといけない時間だなと思って。」
私がそう言うと、仁さんがちらっとこっちを見た。
「…俺が送ってく。」
そういって立ち上がる仁さん。
「いや、大丈夫です。一人で帰れます。」
寮の最上階といえ、私の部屋はそれほど遠くない。
それにもう勉強で疲れただろうからゆっくり休んでほしい…。
「…却下。」
「仁、結ちゃんを頼んだよ。」
「…言われなくても。」
私は部屋を出る準備をしていると、陸さんも準備をしているようだった。
「陸さんはどこかに行くんですか?」
「うん、ちょっとね。」
少し気になったけど、深くは聞かなかった。
三人で部屋を出て、すぐに二手に分かれる。
「陸さん、ありがとうございました。楽しかったです。」
本当に今日は楽しかった。類さんのことで少し二人には迷惑をかけちゃったけど、今度は類さんも一緒にみんなで勉強できたらいいなっ…。
「結ちゃん。今日はありがとう。また勉強、頼んでいいかな?」
また呼んでくれるなんて、うれしいっ…。
「はい。よろこんでっ。」
私と仁さんはエレベーターに乗った。
「なあ、白鳥。」
「…はい?」
「俺のこと、怖い?」
仁さんのことがっ⁉
確かに最初は怖いと思っていたけど、本当は世話焼きで優しい人だって知ってるから。
「…そんなの全然思いません。仁さんは優しいです。」
目を見てはっきりと伝えると、仁さんは大きく目を見開いてしばらくすると少し微笑んだ。
「…そっか。」
するとすぐに私の階についてしまった。
そのまま二人で歩いて私の部屋の前に来る。
「仁さん、ありがとうございました。今日は楽しかったです。」
「……ん。」
仁さんはなにか言いたそうに「あー」と言っている。
「……またな。」
仁さんは背中を向けて歩いて行ってしまった。そして後ろから見える耳は、少し赤かった。
こ、こんなこと言ったら失礼かもしれないけど、今照れてる感じが可愛かったっ…。
そして今日は布団に入るなり、すぐに眠りについた。
「…くしゅんっ。」
少し厚めの服を着ているのに今年の春も寒いな。
風邪ひいちゃうかもしれないけど、今はどうでもよかった。
…幻滅、させちゃったかな…。
「そんなところで風邪ひくぞ。」
声がした方からは仁さんの姿が。
そして上着を私にかけてくれた。途端に優しい香りがふわっとした。
「あ、ありがとうございます。」
心臓が早くに脈打っている。まるで仁さんにだ、抱きしめられているみたいだった。
そういえば私に上着を貸して仁さんは寒くないのかな?
「さ、寒くないんですか?」
よく見ると黒の薄そうな服だった。
「仁さんが着てください。私はいいですから。」
そういって私は上着を脱ごうと手をかける。
「いい、俺は気にするな。」
そして私の頭に手をのせてぽんぽんと優しく撫でた。
「へっ…⁉」
思わず間抜けな声が出てしまった。
「ふはっ、耳まで真っ赤。」
なっ⁉か、からかってるの⁉
私はぱたぱたと顔の熱を冷まそうとあおいだ。
静まって、私の心臓…。
「白鳥。俺達には白鳥が必要だ。類は気まぐれだからな。気にするな。」
急に真剣な顔をして、私にそう言ってくれた。
私を必要としてくれている…。
「あの…。」
「ん?」
「なぜみなさんは、首席からの勉強が必要なんですか?」
寮の最上階にいるのは勉強や喧嘩が優秀なだけだから、もちろん勉強もできるだろうし…。
私の力がなくても大丈夫だと思うんだけど…。
「…トップになりたいんだ。」
「何のトップですか…?」
「この学校のトップだ。トップは絶大な権力を得る。そのトップになるためには、今のトップに勝たなきゃいけない。」
そんな大変な目標を持っているなんて、仁さんに尊敬するな。
「そのためにはもっと、努力が必要だ。だから首席の力を借りてトップになりたい。」
…仁さんの思いは伝わった。きっと仁さんが強いのは努力の証だろうから。
だけど私なんかにその役目が務まるのかが不安。今回はたまたま首席になっただけなのに。
私にできることを…。
「話してくれて、ありがとうございました。戻りましょう。」
おかげで気持ちの整理ができた。
「取り乱してごめんなさい。」
私は頭を下げて陸さんと類さんに謝った。
「頭を上げて、結ちゃん。」
陸さんにあわてた声で言われて頭を上げる。
類さんは相変わらず黙ったまま。
仁さんはスマホをいじってこっちに興味を示していないようだった。
「ごめんね、急に。首席のこと、忘れていい…」
私にできることはしたい。仁さんの言葉を聞いてそう思えた。
「やります。みなさんの期待通りにできるかはわからないけど、私にできることは全部させてください‼」
私は陸さんの言葉をかぶせて言った。
勢いのまま言ってしまったから陸さんと類さんは口と目を見開いている。
頑張るって決めたんだ。私を必要としてくれた皆さんのために頑張らなきゃ。
「本当に、いいの…?」
「…はい。」
「…ありがとう、結ちゃん。」
私は陸さんに微笑むと、陸さんも微笑んでくれた。
お兄さんが出来たみたいだな。
「じゃあ始めるぞ。」
仁さんが立ち上がってそういった。
「何をですか?」
「勉強、教えてくれるんだろ?」
「い、今からですかっ⁉」
準備とかもあるし、今からはちょっと……。
「ほら、早く。」
そういって机に頬杖をついて仁さんの隣をポンポンと叩いている。
隣に座れってこと、…なのかな?
私は指示された通り、隣に座った。
「じゃあ、お願いしようかな。」
そういって陸さんもこっちに来た。そして私の向かいに座った。類さんは少し離れたところでイヤホンを耳にさしてスマホを見ている。
類さんは参加しないのかな?
「…る、類さん。よかったら一緒に勉強しませんか?」
類さんは私をちらっとだけ見た。
あ、相変わらずだな…。
「ごめんね、結ちゃん。勉強会、三人で始めようか。」
陸さんがまた謝ってくれて、私は思わず苦笑いをした。
「じゃ、じゃあ、この前の定期テストの結果を教えてくれますか?」
勉強を教えるくらいだからそんなに悪い点なのかな…?
「…二位。」
「三位だよ。ちなみに九十二点で、仁が九十四点だよ。」
に、二位と三位っ…。私が教えなくてもいい気が…。
「そっか、じゃあ何点目標にしますか?」
「…満点。」
「ぼくも仁と同じかな。」
ま、満点は、私も取ったことがないし、取った人を見たことがないくらい難しいけど…。
私も二人に教えるんだったら教えれるくらい頑張らなきゃなっ…。
「…各自で勉強してみましょう。わからないことがあったら聞いてください。」
こ、こんな感じでいいのかなっ…。
人に教えたことなかったからこれでいいのかわからないけど、あってるのかな…。
そう指示すると、二人は真剣な顔をして問題を解き始めた。
私も勉強しなきゃっ。
私は二人に続いて問題集を解き始めた。
「…白鳥。ここ教えて。」
仁さんに呼ばれたので振り向くと、文章問題の所を示していた。
「ここは、こうしてこれをここに持ってくるとわかりやすくなりますよ。」
不安になって仁さんをちらっと横目で見ると、私の説明を聞いてシャーペンを素早く動かしていた。
「さんきゅ。」
ふふっ、こんな風に感謝されるとうれしくなるな。
私たちは協力して問題集を解き続けた。
つ、疲れた…。
集中力は切れる方ではないけど、さすがに疲れたな…。
時間を見るともう六時だった。寮生活だから門限とかはないけど、さすがに帰った方がいいよね。
「結ちゃん。もう疲れた?」
陸さんが笑いながら私に聞いてきた。
「はい。そろそろ帰らないといけない時間だなと思って。」
私がそう言うと、仁さんがちらっとこっちを見た。
「…俺が送ってく。」
そういって立ち上がる仁さん。
「いや、大丈夫です。一人で帰れます。」
寮の最上階といえ、私の部屋はそれほど遠くない。
それにもう勉強で疲れただろうからゆっくり休んでほしい…。
「…却下。」
「仁、結ちゃんを頼んだよ。」
「…言われなくても。」
私は部屋を出る準備をしていると、陸さんも準備をしているようだった。
「陸さんはどこかに行くんですか?」
「うん、ちょっとね。」
少し気になったけど、深くは聞かなかった。
三人で部屋を出て、すぐに二手に分かれる。
「陸さん、ありがとうございました。楽しかったです。」
本当に今日は楽しかった。類さんのことで少し二人には迷惑をかけちゃったけど、今度は類さんも一緒にみんなで勉強できたらいいなっ…。
「結ちゃん。今日はありがとう。また勉強、頼んでいいかな?」
また呼んでくれるなんて、うれしいっ…。
「はい。よろこんでっ。」
私と仁さんはエレベーターに乗った。
「なあ、白鳥。」
「…はい?」
「俺のこと、怖い?」
仁さんのことがっ⁉
確かに最初は怖いと思っていたけど、本当は世話焼きで優しい人だって知ってるから。
「…そんなの全然思いません。仁さんは優しいです。」
目を見てはっきりと伝えると、仁さんは大きく目を見開いてしばらくすると少し微笑んだ。
「…そっか。」
するとすぐに私の階についてしまった。
そのまま二人で歩いて私の部屋の前に来る。
「仁さん、ありがとうございました。今日は楽しかったです。」
「……ん。」
仁さんはなにか言いたそうに「あー」と言っている。
「……またな。」
仁さんは背中を向けて歩いて行ってしまった。そして後ろから見える耳は、少し赤かった。
こ、こんなこと言ったら失礼かもしれないけど、今照れてる感じが可愛かったっ…。
そして今日は布団に入るなり、すぐに眠りについた。


