イケメン男子に声をかけられた翌日。
私は、寮に住むための荷物を学校に運んでいる。
寮は食堂もあるしなんと二十階もある。
右肩にはスクールバック、左肩には荷造りした大きなカバンをかけている。
さすがに重すぎる…。
寮は食堂もあるけど値段もそれなりに高いし、せっかくなら自炊したいと思い、料理器具などで荷物が多くなってしまった。
はあ、まだまだ学校まで距離がある。そう考えるだけで気分が悪くなる。
途端に左肩がすっと、軽くなった。
なにっ?
振り向くと、そこには…
「…何入ってんの?これ。」
カバンを軽々と持ち上げてこっちを見ている仁さんの姿が。
「じ、仁さん…?」
ええ…。
突然の登場にびっくりしてしまう。
しかも、あんな重かった荷物を簡単に持ってしまうなんて…。
「何突っ立てんの?遅刻するから。」
そういってどんどん私の荷物を持って行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「あ?」
振り向いて「あ?」って、怖すぎるよっ…。
ち、違うっ。
私は頭を振って切り替える。
「あ、あのっ。手伝ってくれているのはわかるんですけど……か、返してくれませんか?」
少しの沈黙が流れる。
私は大丈夫だからっ…。
「却下。」
あっさりと切り捨てられてしまった。
「ええ、ちょっと…待ってください…。」
「それに、手伝ってない。」
「え?」
手伝ってないって…じゃあなんで持ってくれているの?
「人質。」
ひ、人質…⁉
「ど、どういうことですかっ。」
聞いても、返事をくれることはなかった。
私…この人、少し苦手かもしれないっ。
しばらくして学校の門が見えてきた。
周りを見渡すと、少しの女子生徒がこっちをにらむようにしてくる姿が。仁さんと登校してきたって、勘違いしている。いや、一緒に登校してきたことも間違いじゃないけど…。
この学校は男子と比べて女子が圧倒的に少なく、私を見る目が少ないのが唯一の救いだっ…。
というか、どこまで荷物を持ってくれるのかな…。
「あ、あのっ。荷物を持ってくださってありがとうございました。私はもう、大丈夫なので。」
どんどん進んでいく仁さんの背中に言った。
一刻も早く、人の目から外れたいっ…。
仁さんは足を止めて、こっちを振り返った。そのままじっと私を見つめている。
ど、どうしたのかな?
「ど、どうかしまし……えっ」
仁さんは突然私の腕をつかんでそのまま私を引き寄せた。
な、なにするのっ。
至近距離に仁さんがいると思うと、顔が熱くなった。
顔を上げると、私を見下ろしている仁さんと視線がぶつかる。
いつもより近くで見る仁さんの目は……キレイだった。
人をひきつけないような怖い瞳だと思っていたけど、きらきらとしたキレイな瞳だった。
思わず見とれていると、仁さんは顔を私の耳元に近づけた。
その瞬間に優しい香りがふわっとした。
「放課後、寮の裏に来い。」
「へ……。」
仁さんは私に荷物を持たせて、どこかに行ってしまった。
私は不自覚にもドキッとしてしまった。
な、何…。今の…。
私は我に返り、周りを見渡した。
周りも唖然としている。女子に限らず男子も。
それに〝寮の裏〟ってすごく薄暗いところだよね…。そんなところで何するんだろう。
ケンカは慣れていても前、追いかけられた時の体力を考えると私、無事に帰ってこられないんじゃ…
そう思って頭を振った。
か、考えても仕方がない。い、行ってみないと…何もならないから。
私は、駆け足で学校の中へと入った。
「ねえ、どうしたの?今日、ちょっと顔色悪いよ。」
それからというものの、私は仁さんのことで気が気じゃない。
「ご飯も全然食べてないし…何かあった?」
私の目の前にあるのはお弁当。食欲もわかず、こんなに残してしまった。
「なんでもないよ。昨日夜更かししちゃったから、すこし寝不足なのかも。」
ごまかすために笑った。私でもわかるほどにひきつっている。
すずちゃんは私をじっと見る。
「まあ結が言いたくないなら無理に言わなくていいけどさー。」
ば、ばれてる…。
ごめんね、すずちゃん。私はすずちゃんに心配をかけたくないから。
私は少しの罪悪感を残したまま、お弁当のふたを閉じた。
そして来た放課後。
私は今学校から帰ってきたばっかりで荷ほどきも終わってないまま、寮の裏庭へと行く。
角を曲がったところで一人の人影が見える。
「じ、仁さんですか?」
近くに行くと、仁さんが立っていた。
な、何をするのだろう…。
「行くぞ。」
そう短く一言言って歩き出してしまった。
行くぞってついて来いってこと?
訳が分からず立ち尽くしていると、仁さんは振り返った。
「何突っ立てんの?早くこい。」
「あ、はいっ…」
言葉足らずって感じだな……あはは…。
それにしても、どこに行くんだろう?
しばらく歩いて気付いた。どうしても二人の間に長い距離が出来てしまう。仁さんが速いのかな?それとも私が遅いのかな?少しついていくのが大変っ
すると、寮の中へと入っていく。
「え?なんで寮に?」
寮のどこに行くのだろう…。
そのままエレベーターに乗る。どんどんと上がっていくエレベーター。
「ど、どこにいくのですか?」
「…後でわかる。」
後でわかるって、どういうことだろう?
でも、戦うそぶりを見せないし暴力とかではなさそう…?
それにしても、どんどん上に上がっていってるけど、大丈夫なの?
「やっと着いたって、最上階⁉」
確か最上階って、一般の生徒は許可なく立ち入ったらダメって…
「一般の生徒は立ち入れないって…。」
ここの階は、ある三人のためだけに作られた特別な階。私たちは絶対に入れないと噂されている。
そんなところになんで…?
仁さんは、その中の部屋の前で止まって、ドアをノックした。
「俺だ。」
ドアに向かってつぶやく仁さんに理解が追い付かなかった。
え、ちょっと待って。な、何が起こっているの…?
それに「俺だ。」って、仁さんの知り合いなのかな?
「じ、仁さん。これはどういう…」
―――ガチャ
え…?
突然ドアが開いて、覗くような形で陸さんが部屋から出てきた。
「…仁、入っていいよ。え、結ちゃんもいる。なんで?」
陸さん⁉なんで陸さんが⁉
私は部屋の外についている表札を見ると〝神宮寺〟と書いていた。
…陸さんの、お部屋っ…。
仁さんは慣れたかのように陸さんの部屋へ入っていく。
突然のことでびっくりしていると、陸さんが振り返った。
「ごめんね、結ちゃん。仁ってこう見えて意外と優しいからさ。とりあえず中に入って。」
なにがなんだかわからなくて、私は陸さんの言葉に甘えさせてもらうことにした。
「す、すみません。お、おじゃまします…。」
部屋に入ると、優しい香りがした。この香り、どこかで…そうだ。仁さんの香りだ。
陸さんの部屋は、落ち着いた色合いで統一されたキレイな部屋だった。
「結ちゃん、ココアは好き?ココアでよかったら用意するよ」
「あ、お構いなく…」
勝手に部屋に来てしまって、飲み物までもらうなんてもうしわけないなっ。
「じゃあ、ココアにするね。ゆっくりくつろいでて構わないからね。」
案内されてリビングに行くと、仁さんがソファに座って本を読んでいる姿が見えた。…本を読んでいる姿も様になるな。
私は仁さんと少し離れた床に座って待っていた。
ただおじゃまするだけじゃなくて、何かお手伝いできたらいいけどな。
「…こっちすわれば?」
視線を声がした方にずらすと、そこにはこっちを見ている仁さんの姿が。
「嫌なら無理しなくていいけど。」
そういって本に視線を戻した。
…気を使ってくれたのかな?
「じゃあ……おじゃまします。」
仁さんに迷惑がかからないようにソファのはじに座った。
だけど思ったより仁さんとの距離が近いっ…。肩がぶつかり合うくらいの距離だった。
何とか意識しないように他のことを考えても、何も考えられない。
「っ…。」
「なあ、白鳥。」
「は、はいっ。」
「緊張しなくていいから。」
「あっ、…ありがとうございます。」
白鳥って名前、覚えててくれたんだ。
それに緊張しなくていいって気を使ってくれたのかな?
すると部屋の角から、お盆にカップをのせて陸さんが歩いてきた。
「あれ?仁、どうしたの?仁が女の子とくっつくなんて。」
く、くっつく…⁉
り、陸さんっ…。
「へっ⁉いや、あの…。」
そんな私を見て吹き出す陸さん。
「ごめんごめん、結ちゃんが面白いからつい。」
助けを求めようと仁さんを見たら、仁さんもくすくすと笑っていた。
「仁さんも笑ってないですか⁉」
私が言うと、仁さんも我慢できないと言いたげに一緒に吹き出した。
「お前、あわてすぎだろ」
…初めて見る仁さんの笑顔。
その笑顔は意外にも優しく、こどものような笑顔だった。
「ふふっ」
私もなんだかおかしくて、笑ってしまった。
―――ガチャ
「あ、類かも。」
そういって陸さんは玄関のほうへ歩いて行ってしまった。
類さんっ…。
実はあの三人と初めて会ったときに類さんに怖いイメージがついてしまった。
うまく話せるといいなっ。
類さんらしき人の足音がだんだんと近づいてくる。
ついに類さんがリビングにくると、私をにらみつけた。
びくっと私の肩がふるえる。
「は?なんでこの女がいるの?」
「あ、あのっ。」
「どーせ、ほかのやつと変わらない奴なんだろ。」
私が話そうとしても言葉をかぶせてくる。
「…俺はこいつに教えてもらわなくてもできるから。」
そういってキッチンのほうへと行ってしまった。
―――完全に嫌われてしまった。私は今日ここに来なかったらよかったかもしれない、首席を取らなかったらよかったかもしれないなんて、ネガティブな思考がぐるぐるとあふれ出てくる。
「結ちゃんごめんね。今日は勉強の勧誘をしようと思って呼び出したんだ。…類の言葉、気にしなくていいから。本当にごめん。」
陸さんは本当に申し訳なさそうに謝ってくれた。
違う、陸さんが悪いわけじゃない。類さんも悪くない。類さんは私に教えてもらわなくても自分でできるって言っただけ。ただそれだけなのに…。
どうしても胸が痛くなってしまう。
「…ごめんなさい。ちょっと外の空気、吸ってきます…。」
今は、気持ちの整理がしたい。
目頭が熱くなった。…泣いたらだめだ。仁さんと陸さんをこれ以上、困らせるわけにはいかないから。
私は席を立って部屋を出た。
私は、寮に住むための荷物を学校に運んでいる。
寮は食堂もあるしなんと二十階もある。
右肩にはスクールバック、左肩には荷造りした大きなカバンをかけている。
さすがに重すぎる…。
寮は食堂もあるけど値段もそれなりに高いし、せっかくなら自炊したいと思い、料理器具などで荷物が多くなってしまった。
はあ、まだまだ学校まで距離がある。そう考えるだけで気分が悪くなる。
途端に左肩がすっと、軽くなった。
なにっ?
振り向くと、そこには…
「…何入ってんの?これ。」
カバンを軽々と持ち上げてこっちを見ている仁さんの姿が。
「じ、仁さん…?」
ええ…。
突然の登場にびっくりしてしまう。
しかも、あんな重かった荷物を簡単に持ってしまうなんて…。
「何突っ立てんの?遅刻するから。」
そういってどんどん私の荷物を持って行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「あ?」
振り向いて「あ?」って、怖すぎるよっ…。
ち、違うっ。
私は頭を振って切り替える。
「あ、あのっ。手伝ってくれているのはわかるんですけど……か、返してくれませんか?」
少しの沈黙が流れる。
私は大丈夫だからっ…。
「却下。」
あっさりと切り捨てられてしまった。
「ええ、ちょっと…待ってください…。」
「それに、手伝ってない。」
「え?」
手伝ってないって…じゃあなんで持ってくれているの?
「人質。」
ひ、人質…⁉
「ど、どういうことですかっ。」
聞いても、返事をくれることはなかった。
私…この人、少し苦手かもしれないっ。
しばらくして学校の門が見えてきた。
周りを見渡すと、少しの女子生徒がこっちをにらむようにしてくる姿が。仁さんと登校してきたって、勘違いしている。いや、一緒に登校してきたことも間違いじゃないけど…。
この学校は男子と比べて女子が圧倒的に少なく、私を見る目が少ないのが唯一の救いだっ…。
というか、どこまで荷物を持ってくれるのかな…。
「あ、あのっ。荷物を持ってくださってありがとうございました。私はもう、大丈夫なので。」
どんどん進んでいく仁さんの背中に言った。
一刻も早く、人の目から外れたいっ…。
仁さんは足を止めて、こっちを振り返った。そのままじっと私を見つめている。
ど、どうしたのかな?
「ど、どうかしまし……えっ」
仁さんは突然私の腕をつかんでそのまま私を引き寄せた。
な、なにするのっ。
至近距離に仁さんがいると思うと、顔が熱くなった。
顔を上げると、私を見下ろしている仁さんと視線がぶつかる。
いつもより近くで見る仁さんの目は……キレイだった。
人をひきつけないような怖い瞳だと思っていたけど、きらきらとしたキレイな瞳だった。
思わず見とれていると、仁さんは顔を私の耳元に近づけた。
その瞬間に優しい香りがふわっとした。
「放課後、寮の裏に来い。」
「へ……。」
仁さんは私に荷物を持たせて、どこかに行ってしまった。
私は不自覚にもドキッとしてしまった。
な、何…。今の…。
私は我に返り、周りを見渡した。
周りも唖然としている。女子に限らず男子も。
それに〝寮の裏〟ってすごく薄暗いところだよね…。そんなところで何するんだろう。
ケンカは慣れていても前、追いかけられた時の体力を考えると私、無事に帰ってこられないんじゃ…
そう思って頭を振った。
か、考えても仕方がない。い、行ってみないと…何もならないから。
私は、駆け足で学校の中へと入った。
「ねえ、どうしたの?今日、ちょっと顔色悪いよ。」
それからというものの、私は仁さんのことで気が気じゃない。
「ご飯も全然食べてないし…何かあった?」
私の目の前にあるのはお弁当。食欲もわかず、こんなに残してしまった。
「なんでもないよ。昨日夜更かししちゃったから、すこし寝不足なのかも。」
ごまかすために笑った。私でもわかるほどにひきつっている。
すずちゃんは私をじっと見る。
「まあ結が言いたくないなら無理に言わなくていいけどさー。」
ば、ばれてる…。
ごめんね、すずちゃん。私はすずちゃんに心配をかけたくないから。
私は少しの罪悪感を残したまま、お弁当のふたを閉じた。
そして来た放課後。
私は今学校から帰ってきたばっかりで荷ほどきも終わってないまま、寮の裏庭へと行く。
角を曲がったところで一人の人影が見える。
「じ、仁さんですか?」
近くに行くと、仁さんが立っていた。
な、何をするのだろう…。
「行くぞ。」
そう短く一言言って歩き出してしまった。
行くぞってついて来いってこと?
訳が分からず立ち尽くしていると、仁さんは振り返った。
「何突っ立てんの?早くこい。」
「あ、はいっ…」
言葉足らずって感じだな……あはは…。
それにしても、どこに行くんだろう?
しばらく歩いて気付いた。どうしても二人の間に長い距離が出来てしまう。仁さんが速いのかな?それとも私が遅いのかな?少しついていくのが大変っ
すると、寮の中へと入っていく。
「え?なんで寮に?」
寮のどこに行くのだろう…。
そのままエレベーターに乗る。どんどんと上がっていくエレベーター。
「ど、どこにいくのですか?」
「…後でわかる。」
後でわかるって、どういうことだろう?
でも、戦うそぶりを見せないし暴力とかではなさそう…?
それにしても、どんどん上に上がっていってるけど、大丈夫なの?
「やっと着いたって、最上階⁉」
確か最上階って、一般の生徒は許可なく立ち入ったらダメって…
「一般の生徒は立ち入れないって…。」
ここの階は、ある三人のためだけに作られた特別な階。私たちは絶対に入れないと噂されている。
そんなところになんで…?
仁さんは、その中の部屋の前で止まって、ドアをノックした。
「俺だ。」
ドアに向かってつぶやく仁さんに理解が追い付かなかった。
え、ちょっと待って。な、何が起こっているの…?
それに「俺だ。」って、仁さんの知り合いなのかな?
「じ、仁さん。これはどういう…」
―――ガチャ
え…?
突然ドアが開いて、覗くような形で陸さんが部屋から出てきた。
「…仁、入っていいよ。え、結ちゃんもいる。なんで?」
陸さん⁉なんで陸さんが⁉
私は部屋の外についている表札を見ると〝神宮寺〟と書いていた。
…陸さんの、お部屋っ…。
仁さんは慣れたかのように陸さんの部屋へ入っていく。
突然のことでびっくりしていると、陸さんが振り返った。
「ごめんね、結ちゃん。仁ってこう見えて意外と優しいからさ。とりあえず中に入って。」
なにがなんだかわからなくて、私は陸さんの言葉に甘えさせてもらうことにした。
「す、すみません。お、おじゃまします…。」
部屋に入ると、優しい香りがした。この香り、どこかで…そうだ。仁さんの香りだ。
陸さんの部屋は、落ち着いた色合いで統一されたキレイな部屋だった。
「結ちゃん、ココアは好き?ココアでよかったら用意するよ」
「あ、お構いなく…」
勝手に部屋に来てしまって、飲み物までもらうなんてもうしわけないなっ。
「じゃあ、ココアにするね。ゆっくりくつろいでて構わないからね。」
案内されてリビングに行くと、仁さんがソファに座って本を読んでいる姿が見えた。…本を読んでいる姿も様になるな。
私は仁さんと少し離れた床に座って待っていた。
ただおじゃまするだけじゃなくて、何かお手伝いできたらいいけどな。
「…こっちすわれば?」
視線を声がした方にずらすと、そこにはこっちを見ている仁さんの姿が。
「嫌なら無理しなくていいけど。」
そういって本に視線を戻した。
…気を使ってくれたのかな?
「じゃあ……おじゃまします。」
仁さんに迷惑がかからないようにソファのはじに座った。
だけど思ったより仁さんとの距離が近いっ…。肩がぶつかり合うくらいの距離だった。
何とか意識しないように他のことを考えても、何も考えられない。
「っ…。」
「なあ、白鳥。」
「は、はいっ。」
「緊張しなくていいから。」
「あっ、…ありがとうございます。」
白鳥って名前、覚えててくれたんだ。
それに緊張しなくていいって気を使ってくれたのかな?
すると部屋の角から、お盆にカップをのせて陸さんが歩いてきた。
「あれ?仁、どうしたの?仁が女の子とくっつくなんて。」
く、くっつく…⁉
り、陸さんっ…。
「へっ⁉いや、あの…。」
そんな私を見て吹き出す陸さん。
「ごめんごめん、結ちゃんが面白いからつい。」
助けを求めようと仁さんを見たら、仁さんもくすくすと笑っていた。
「仁さんも笑ってないですか⁉」
私が言うと、仁さんも我慢できないと言いたげに一緒に吹き出した。
「お前、あわてすぎだろ」
…初めて見る仁さんの笑顔。
その笑顔は意外にも優しく、こどものような笑顔だった。
「ふふっ」
私もなんだかおかしくて、笑ってしまった。
―――ガチャ
「あ、類かも。」
そういって陸さんは玄関のほうへ歩いて行ってしまった。
類さんっ…。
実はあの三人と初めて会ったときに類さんに怖いイメージがついてしまった。
うまく話せるといいなっ。
類さんらしき人の足音がだんだんと近づいてくる。
ついに類さんがリビングにくると、私をにらみつけた。
びくっと私の肩がふるえる。
「は?なんでこの女がいるの?」
「あ、あのっ。」
「どーせ、ほかのやつと変わらない奴なんだろ。」
私が話そうとしても言葉をかぶせてくる。
「…俺はこいつに教えてもらわなくてもできるから。」
そういってキッチンのほうへと行ってしまった。
―――完全に嫌われてしまった。私は今日ここに来なかったらよかったかもしれない、首席を取らなかったらよかったかもしれないなんて、ネガティブな思考がぐるぐるとあふれ出てくる。
「結ちゃんごめんね。今日は勉強の勧誘をしようと思って呼び出したんだ。…類の言葉、気にしなくていいから。本当にごめん。」
陸さんは本当に申し訳なさそうに謝ってくれた。
違う、陸さんが悪いわけじゃない。類さんも悪くない。類さんは私に教えてもらわなくても自分でできるって言っただけ。ただそれだけなのに…。
どうしても胸が痛くなってしまう。
「…ごめんなさい。ちょっと外の空気、吸ってきます…。」
今は、気持ちの整理がしたい。
目頭が熱くなった。…泣いたらだめだ。仁さんと陸さんをこれ以上、困らせるわけにはいかないから。
私は席を立って部屋を出た。


