絶対落ちないきみが好き


「もう行く」

「あ、待ってよ唯澄くん!」

ふい、と顔を背けて今度こそ教室へ向かって歩き出した唯澄くんの後を急いで追う。

「私、唯澄くんにかわいいって思ってもらえるように頑張るね!」

「がんばれがんばれ」

「今日はちょっとお高めのパックを使っちゃおうかなあ〜」

「……」

「バイト代が入ったばっかだし、新しいリップとシャドウ、買いに行こうかなあ〜」

唯澄くんの横に並んで歩きながら、声を弾ませる。

「ねえねえ唯澄くん、」

「じゃあね」

――唯澄くんはどんな髪型が好き?

という問いを口に出す前に、唯澄くんは淡々と別れの言葉を告げた。

二年三組、唯澄くんの教室に着いてしまったのだ。

名残惜しむ間もなく、私の返事を聞くこともなく、唯澄くんは自身の教室に入って行ってしまった。

「また休み時間に会いにくるね! 唯澄くんだいすき!」

唯澄くんの背中に大きな声をぶつける。当たり前に振り返ってくれることはないけど、今日も朝から唯澄くんを摂取できたから満足だ。前髪のことは残念だけど。

るんるん、と頭に音符を浮かべながら、二年七組の教室へと足を運んだ。