早くも階段を上ろうとしている背中を追いかけながら「唯澄くん! まって~!」と大声を上げるのはいつものこと。

私は自分の気持ちを周りにも一切隠していないから、私が唯澄くんを好きなことは学年中誰もが知っている。

初めの頃は、唯澄くんに付き纏う私に好奇な目を向けてくる人はたくさんいた。だけど一年以上毎日これを続けていたら、私が唯澄くんを追いかけるこの光景は、皆にとって見慣れた日常の一コマと化したみたい。

私たちをジロジロと面白おかしく見てくる人はほとんどいないし、「今日もがんばれ~!」と応援の声をかけられることも多い。

学年中が私の恋を応援してくれている。

と、ポジティブな私は自分の都合のいいように解釈している。

階段の半分くらいで唯澄くんに追いついた。

身長が男の人の平均よりちょっと大きいくらいの唯澄くんは、身長150センチの私よりも遥かに歩幅が大きいのだ。

駆け足で歩いたから息が上がる。はあはあ、と息を乱しながら唯澄くんの顔を覗きこむと、スンと澄ました表情を向けられた。階段を上り終わったところで、唯澄くんは徐に立ち止まった。