「いーずーみーくーんっ! おはよっ!」
「……」
私、綾崎萌乃の一日は、好きな人から蔑んだ瞳を向けられることから始まる。
普段はくりっとした大きな瞳がすうっと細まり、ひんやりと冷たい視線が飛んでくる。ぞくぞく、と快感が全身を駆け巡る。
ん〜〜〜!好きっ!!!
「今日も唯澄くんはかっこいいねえ」
「今日も綾崎さんはしつこいね」
「ふふっ。ありがとう」
「これっぽっちも褒めてないよ」
「唯澄くんから貰う言葉は、私にとったらどれも褒め言葉だよ?」
「意味がわからないね」
「ふふっ。好き」
「……」
毎朝7時50分、私は"かわいい"をフル装備して校門前でスタンバイしている。
唯澄くんは、最寄り駅に7時45分に到着する電車で通学している。駅から私たちの通う高校までは、普通に歩いて10分ほど。
唯澄くんがどれだけ早歩きをしてもいいように、徒歩通学の私は必ず7時50分には学校に到着している。
唯澄くんを好きになってからずっと。雨の日も、猛暑の日も、凍える寒さの日だって、一分一秒たりとも遅れたことはない。
え?ストーカーですって? ノンノンノン。私はただの恋する乙女なの。


