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昼休み、久しぶりに杉崎さんと在庫管理室でお昼ご飯。
気持ちが逸って、エレベーターが降りていく時間でさえ、長く感じる。
前に二人で食べて居た時は、杉崎さんの方が早く来てる事が多かったから。
今日はちゃんと私が先に居て待ってるんだ。
なんて、足早に来てみたら。
「お、早かったね。」
杉崎さんは既に来ていて、小さな管理室の中は何だか良い匂いが充満していた。
「杉崎さんこそ…」
ドアを閉めた所で立ち止まっていたら、杉崎さんが近づいて来てフワリと私を抱き寄せる。
「…制服。」
「……。」
そんなに好きなのかな、この制服…事務系の人は皆着てるのに……ってちょっと待って?
こ、これって…この制服を着ている別の人を杉崎さんが魅力的だと思う可能性もあるって事…だよね。
いや、この制服を着ている女子は皆、可愛いのかな?杉崎さんにとって。
そ、そんな……
「あ、あの…」
「んー?」
「わ、私…そ、その…が、頑張る…ので…」
「…うん。」
「…だ、誰でもイイと…お、思わないで頂けたら…」
「……。」
「…幸いです。」
クッと笑う声が耳元でして、フワリとしたその髪先が頬を少しくすぐった。
「…何?制服の事?」
「そ、そうです…あの…好きみたい…なので。」
「うん。好き。」
やっぱり……
これは、ヤバい。
この制服を着ている誰よりもスタイル良くならなければ…
心の中で気合いを入れてたら、杉崎さんが顔をあげた。
「ねえ、沙奈さ…“唯一無二”って知ってる?」
“唯一無二”…?
『この世でただ一つしかないこと』とか『 他に同類のものがなく、その一つ以外並ぶものがないこと』みたいな意味だったよね…
「えっと…はい…」
目を瞬かせて首を傾げたら、眉を下げて少し苦笑い。
「…まあ、そうだよね、沙奈だもんね。」
「え?あの…んんっ」
杉崎さんの言わんとしている事が全くわからないまま、抱き寄せられて、唇を塞がれた。
啄む様なキスは、変わらず優しくて、柔らかく…何度も何度も繰り返される。
もっともっと欲しくて、私も杉崎さんの背中に手を回して引き寄せた。
…でも。
そこで、キスは終わって、代わりにコツンとおでこ同士がくっつく。
「…お昼、食う?」
「……は、い…。」
辿々しく返事をする私に鼻をすり寄せ杉崎さんが笑った。
「…今日、うちに帰ってくれば?」
「今日はシリシさんと新年会で…」
「………。」
あ、あれ…?
ちょっと機嫌が悪くなった…
「あ、あの…今日はシリシさんと二人だけですよ?」
「……。」
「杉崎さん…?」
「………わかってますよ。」
再び私の首筋にその顔が埋まり、より腰からギュウッと引き寄せられた。
「…沙奈。俺のワガママ聞いてくれる?」
「杉崎さんのワガママは、大好物なので。」
即答の私に、「大好物って」と笑うくぐもった声が首筋あたりから聞こえてくる。
「そんなこと言ってどうすんの?俺がすんごい事言い出したら。」
「大好物はすぐ消化出来ます。」
…杉崎さんはわかってない。
私にとって杉崎さんの我が侭がどれくらい特別か。
“あなたにやって欲しい事なんて無いから”
そう甘やかされて半年。
ペットを卒業しても変わらず、優しくて。何かを無理強いするなんてこともなくて。
いつだって甘やかしてくれる。
だから、杉崎さんが私に甘えてワガママを言ってくれるのは、本当に嬉しいんだもん。
「どんとこいワガママ。さあこい!」
「…だからさ。言葉のチョイスがね?ってまあ、そこはもういいや。」
杉崎さんが一旦私から離れて、紙袋を持ってくると、ハイッと差し出した。
紙袋には“Baeckerei Yamada”の文字。
「これとそのぶら下げてる弁当と交換して欲しいんだけど。」
私のお弁当…と、山田さんのパンを?
「で、でも、私のお弁当かなり小さい…」
「や、俺はそれで充分。つか、量の問題じゃ無いでしょ。大なり小なりは、俺の中の問題。」
紙袋を私に持たせて、代わりにランチバッグを持つ杉崎さん。
「俺はどーしても、“今”、沙奈の弁当が食いたいの。」
小首を傾げて口角をキュッとあげて…得意気な笑顔の杉崎さんに、目頭が熱くなる。
「ワガ…ママ…」
「うん。すっげー壮大なワガママでしょ?」
杉崎さんは、そのままスタスタと奥に入っていって、腰を下ろす。「おいでよ」と自分の隣をポンとその丸っこい掌で叩いた。
「……。」
紙袋を抱きしめたまま、近づいて行って隣に腰を下ろしたけど
「おっ!ハンバーグ。」と嬉しそうに笑う杉崎さんに、キュウッと気持ちが少し苦しくなる。
…ペットを卒業してもこうやって大事にしてくれてるのに。
私は杉崎さんに何も返せてないな…。



