◇
…結局杉崎さんの誕生日がいつなのか分からずじまいだな。
クリスマスを終えて、年末年始も何度か杉崎さんの所へ行ったりしていたけど、誕生日の話を切り出すと「んー?」と笑いながらはぐらかされる。
「うーん…。」
「何?悩み事?」
仕事始め、パソコンを打つ指を一旦止めて唸った所に田辺さんが現れた。
「田辺さん…今年もよろしくお願いします。」
「うん。よろしく。」
書類を受け取りながら思った。
…もしかして、田辺さんなら杉崎さんの誕生日を知っていたりするかな。
「あの…田辺さんは杉崎さんのお誕生日…ご存じですか?」
「え?ああ…まあ。何で?」
「杉崎さんに聞いたら教えてくれなくて…」
私の答えに今度は身を少し乗り出すように両肘をカウンターについた。
「…知りたいんだ。」
間近で見る田辺さんの整った顔に、意味ありげな笑顔。
何となく照れくさくなって、顔が熱くなる。
俯いた顔の先にもう一つ人影が出来た。
「唯斗、お疲れ。」
「ああ、遥。そういやNYの書類の出し忘れがあったんだっけ。」
「じゃあ俺はこれで」と先に去って行く田辺さん。
田辺さんには、杉崎さんの事で沢山お世話になったな…いつか、ちゃんとお礼をしたい。
そんな思いで会釈をして、それから杉崎さんに目を移した…けど。
「……。」
…ものすごい真顔で見られてる。
「しょ、書類をお預かりします…」
出された書類に、少し大きめの付箋が付いていて、それが2つに折りたたんである。
一度書類から目を上げて杉崎さんを見たら、今度は小首を傾げて少し微笑んだ。
秘密めいたその小さな紙と杉崎さんの笑顔。
それに少しだけ甘い予感が過ぎる。
胸を高鳴らせ、書類を確認しているフリをしてそれをそっと開いた。
“バーカ、バーカ”
「………。」
私と一緒にその文字を見た杉崎さんが、クッと笑う。
そんな杉崎さんをムッと睨んで返した。
「…書類は受理しましたので、後ほどまたご連絡します。」
「うん、そうして?」
優しい声色と一緒に杉崎さんの手が伸びてきて、付箋を剥がし裏にする。
「…メモは最後まで読みましょうね、経理さん?」
“昼休み、在庫管理室ね”
「んじゃ、よろしくお願いします。」
離れて行くその猫背がちな後ろ姿に頬が熱いまま心音が落ち着かない。
改めて見た、“バーカ、バーカ”の文字に、思わず頬が緩んだ。



