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ニューヨークから帰ってきて、向かった沙奈んとこ。
指輪も実は、日本を発つ前に本店にアポ取って、予約して。
NYについた日には受け取れるように手配してた。
つまりはまあ…行く前から帰ってきたらの事ばっか頭ん中にいっぱいだったわけで。
実際、こうやって早く帰って来れたから良かったよね。
連絡を怠ってて、沙奈には申しわけなかったけど。
なんて思いながら、久我家の門が開いて、歩き出したら…
「え?!うっそ?!そういうこと?!」
…パニックになってる皆山さんと遭遇。
駈さんが苦笑いで後からやって来た。
「興奮して『遥!』って叫ばなかったのを褒めてやって」
「伊達に歳とってないからね!」
ああ…今日誕生日だもんね。
って、まさか、皆山さん、沙奈の部屋でわいわいやってたとか?
疑いの眼差しを向けたら、皆山さんの隣で、皆山さんに負けず劣らす長身の美形が俺をジッと見ている事に気が付いた。
『シリシさん』…だよね。
少し会釈をすると、真顔ながら小首を傾げる仕草で挨拶を返してくれる。
その所作に伴って、サラリと黒髪が揺れた。
「これから、駈んちで飲むんだ!」
「そんな事より、皆山さん。あなたが今どこから出て来たか言えや。」
「え?そこ気にするの?もう!遥ー!」
「安生、しー!名前呼ぶのは無し!」
俺に何故か興奮して覆い被さってきた皆山さんを駈さんがたしなめる。
それをもろともせず、楽しげに笑う皆山さんの声が周囲に少し響いた。
「沙奈ちゃんにまた店で唐揚げ揚げて待ってるって、よろしく伝えてね!」
「嫌です。」
「え?!何でだよ!ケチ!」
「ええ、ケチなんです、ワタクシ。」
「ぜってー言えよ!」と俺に笑顔を向けつつ「駈、行こ?」と皆山さんは歩き出す。
…沙奈とちょっとあったとはいえね。色々皆山さんには世話になったから、感謝してんだよ?これでも。
また…買いに行きますよ、唐揚げ。
でも、沙奈がじゃなくて俺が、だけど。
皆山さんの背中に「ありがとう」と一応感謝の眼差しを送ってたら、駈さんが、ポンッと少し俺の背中を叩いた。
「んじゃ…行くわ。遥、今度沙奈ちゃん含め、尚太君とか…皆で飲もうぜ。計画する。」
「駈さん、その節はお世話になりました。」
「引っ越したくなったらいつでも言って?何か考えんから。」
「風紀…」
「乱れるのはごめん、無理。」
ハハッと笑いながら「じゃあ」と皆山さんの後を追う駈さんに伴って、シリシさんも歩き出す。
揺れる後ろ髪が庭に装飾されているイルミネーションの光を浴びて、艶めいた。
『シリシさん、大好きだもん。』
沙奈の嬉しそうな顔が浮かんで何となく溜息。
や…うん。仲良しの友達が居るのは良い事だよ?
でもなんだろ…この複雑な心境。お株を完全にとられた感じっつーのかな。
多分今、沙奈が真っ先に頼る先は、俺じゃ無く、あの人なんだろうなーってね……。
まあ…いいや。
とにかく俺はあの人を連れ戻したいだけだから。
しかも、あの人がちゃんと納得した状態で。
そんな俺の“提案”は、どうやら沙奈に受け入れられたみたいで。
「杉崎さん…ありがとう。大好き」
極上のお言葉も頂けて。
まあ…予感は的中してたけどね。
皆山さんの誕生日。
多分この人の事だから俺が日本に居てもやっただろうしね、いいんだけどさ…
『クリスマス位一緒に居ないと、他のサンタにとられるわよ』
…ほんと、もうこの人と離れるは勘弁だわ。
俺を優しく抱き寄せる沙奈の腕が心地良くて、だらしなーく頬が緩む。
…俺の誕生日はね。しばらく教えない。
沙奈は覚えてないだろうけど、沙奈が俺んちに来るきっかけになった日だからね。
俺だけ毎年思い出して楽しませて貰います。



